騎士爵領立志編3ー4


 厨房に着くと俺はこの日の為に新調した冷蔵庫から急いでプリンを取り出した。


 プリンは程よく冷えていた。この冷蔵庫は冷却の刻印が施された魔石に魔力を込め、中に取り付けられている小さな箱に魔石を入れると、普通ならば魔力が切れるまで魔石は冷気を出し続ける所、一定の周期でそれが止まり魔石も長持ちするうえ、冷え過ぎないという優れものだ。


 街ではかなり普及している物らしく前世の冷蔵庫と効果は変わらない。

 だが魔石は繰り返し使うと最大容量が減っていき買い換えなくてはいけない為、都市部以外では余り普及していない。


 魔石とは何なんだろうか?ふと疑問が頭を過ぎる。

 刻印と呼ばれる紋を掘る事により多種多様な使い方が出来る。学院に行けば誰か専門家でもいるのだろうか?


「ユウリ様どうかなされましたか?」


 少し考え込んでしまっていたみたいだ、早くプリンを持って行かないと。


「何でも無いよ、直ぐに持っていこう」


 プリンをワゴンに乗せシズクに運んでもらう。

 

 急ぎ王女殿下の部屋に向かうと護衛の近衛四人が部屋の前で待機していた。


 俺は軽く頭を下げ、王女殿下にデザートをお持ちした旨を伝えると中に入るよう促される。


 王女殿下は座椅子には座らず、念のため各部屋にある一般的なテーブル席の方でお食事されたいた様だ。


 少し残念だったが、やはり王女殿下からすれば当然か。


 一礼をして中に入ると王女殿下はこちらを見て微笑んだ。


「ユウリ、呼びつけてしまってごめんなさいね。年も近く見えるし貴方と少し話してみたくて」


 突然の事に戸惑っていると、王女殿下の後ろに控えていた侍女が驚いた様に口を開いた。


「アメリア様なりません! 同じテーブルに着いていい身分差では有りません!]


「大丈夫よ。此処での事を誰も外で吹聴しなければ良いだけですもの。そうでしょう?」


 此処まで言われたら座らざるおえない、覚悟を決めて椅子に座ると侍女の方に睨まれた。

 

 俺にどうしろって言うんだ、断っても不敬じゃないかと頭を抱えたくなった。


 取り敢えず話題を作ろうとシズクの方を見てプリンを運んで貰おうとすると、侍女がシズクに寄っていき私が運びますのでもう下がって大丈夫です。とワゴンを押してプリンを王女殿下と俺の前に置いた。


 毒味をしろってことかな? そう思い先に一口食べる。口に広がるほど良い甘さがやはり美味しい。


 王女殿下はそれを見てプリンを一口食べた瞬間、王女殿下の目が驚きで大きく開かれた。


「これは驚きました。料理の方も美味しかったのですが、このデザートこれは王都でも食べた事が無いほどの味です、名前はなんと言うのですか?」


「こちらはプリンと言います。レシピを考えたのは私ですが作ったのは先程ワゴンを運んできた侍女です」


「ユウリこのレシピは何処で知ったのですか?」


 王女殿下は優しげな笑みを浮かべている。


 前世とは言えない為、加護だと言いたいが王族相手では深く聞かれたら答えない訳にもいかないし困ったな。


 言い淀んでいると王女殿下は何かを察した様で侍女に声を掛けた。


「悪いのだけど少しユウリと二人にして貰えるかしら?」


「アメリア様それはいけません! こんな擬い物まがいものと二人きりなどどんな噂が立つか!」


 王女殿下は今までの優しげな雰囲気とは打って変わり眼に鋭さを帯び周囲の温度が下がったかと思う程の威圧感を感じる。


「私は下がりなさいと命令しているの。お願いしているわけでは無いのよ?」


 侍女はそう言われ顔が青ざめる。


「申し訳ありませんでした・・・」


 侍女は急ぎ退室するが扉が閉まる前に俺を睨んでいた。


「さて、あの様子だとジャスパー辺りを連れて戻って来そうだから時間が無さそうね」


 優しそうだった王女殿下の変化に戸惑う。


「さてユウリ貴方の加護について聞きたいのだけどそれは料理に関する知識なのかしら? この建物の外観といい私の見立てでは、結構広範囲の知識を持っている加護だと見てるんだけど?」


 話を合わせておくかと思い「加護には建物や料理の知識が多少含まれております」と答えた。


 王女殿下は少し不機嫌そうに頬杖を付いた。


「嘘ね、魔力が揺らいだわ。時間が無いと言ったでしょう? 祈りの加護がどんな能力なのか早く答えなさい」


 祈りの加護を知っているのか?母様かシズクが話した?いやありえない、なら考えられるのは加護か・・・


 王女殿下はこちらが悩んでるうちに「これ本当に美味しいわね」とプリンを食べ終わった様だ。

 

 余計な事は言えない慎重に立ち回らないと、と考えていると王女殿下は足を組んで困った様な表情をした。


「あー失敗したわ。ユウリくらいの年齢ならこれで全て話すかと思ったんだけど、警戒心を与えてしまっただけね。やり直しましょう。私はアメリア・スフィーダ、この国の第二王女よ。貴方確か今年14よね?なら同い年だし、アメリアと呼んでくれて良いわ。聞きたいことはあるかしら?」


 アメリア様は机に両肘を付き口元に手を持っていき前のめりになる。ドレスの胸元が強調されるが揶揄われているのだろう絶対に目線を持って行かない事を誓う。


「アメリア様、何故加護の事をご存知なのですか?」


「ユウリの加護について知ってるわけじゃないわ。スフィーダ王家は代々相手のステータスが分かる加護を発現しやすいのよ、私もそれを持っている、それだけの話よ」


「これは周知されている事何ですか?王族の加護の内容何て聞いた事が無かったのですが?」


「外では話さない方が良いわよ。王族の加護について知ってる人は限られてるもの、下手に話すと処刑されるわよ。じゃあ次はユウリの番ね」


  これはもう話すしか無いな嘘を吐いても今の俺では魔力の何が原因で判断されてるかも分からないし打つては無い。


 俺は祈りの加護について話した。途中本当に嘘か分かるのか違う情報を変わりに入れると「試すような真似辞めてくれる?」と不機嫌にさせてしまった。

 そこから前世の事は伏せ全てを話し終わるとアメリア様は

顔を赤くし笑みが深くなっていく。



「良いわ・・・貴方良いわね。私の側室に入らない?ユウリ、貴方が居ればその人に潜在的に眠っている加護を発現させられるのよ、この意味が分かる?加護が発現出来ず、燻ってる貴族に恩を売りながら戦力を増やせるのよ?」


 側室? アメリア様はハーレムでも作りたいのか?


 「お誘いはありがたいのですが私にはこのスカーレット領を豊かにするという目標が有りますので・・・」


「ああ・・・でも側室じゃあポイントは集められないわね、ユウリ、宗教に興味ある?信者を増やしてポイントを稼いで偶に能力を上げてあげたり、見込みのある者の加護を発現してあげるのはどう?楽しそうじゃない?私の眼と貴方の加護があればこの王国を纏め上げ王になれるわ!」


 ハインツと同じタイプだろうか自分の世界に入るとこちらの話は聞こえていないようだ。



 

 アメリア様は少しするとこちらを見て自分の世界に入っていたのを気づいたようで「オホン」と咳払いを一つして落ち着きを取り戻した。


「ごめんなさいね。少し飛躍しすぎたわ、私は将来この国の王になりたいのよ。

 側室の件は一旦忘れてもらって私の取り巻きに入ってもらえないかしら?スカーレット領への支援も私の名前で色々行うと約束するわ」


 支援は正直な所喉から手が出るほどお願いしたいが王宮内の派閥のバランスなど分からない事が多すぎる。


 アメリア様は立ち上がるとこちらに歩いてきて俺の手を取った。


「ちょっと一体何を!」


 アメリア様は真剣な表情をして俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。その表情は今までの彼女とは違い覚悟を感じる瞳だった。


 「わたくしは王に成りたいのです。いえ成らなければいけないのです。どんな事をしても・・・」

 

 判断材料が足らずに悩んでいると扉がノックされ苛立ちを含んだ声が聞こえてきた。


「アメリア様、失礼します」


返事も待たずに扉が開けられると、ジャスパーと呼ばれていた隊長がこちらを睨んできた。


 


 


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