騎士爵領立志編2ー1
フォースベアの襲撃から三ヶ月、六月に入り今年は長雨の影響で小麦の生育が遅れていたがようやく黄金色に色づき始める物もで始めている。
腐葉土を試験的に他の野菜畑にも使い順調に成長しているが長雨が続き天日による腐葉土の滅菌が出来なくなった時は母様の加護で絶妙な火加減を修得してもらい炙っている。
刀の修練も進み何とか剣術E+が刀剣術E+になった。
イノリの力を借り、村の外れにある炭酸泉を使い温泉宿を作っている。今は完成したばかりの温泉宿にそこにはシズクが居た、シズクはこちらに気付くと走って来てくれた。
「ユウリ様もいらしたんですね!開放日には村の人達も温泉に入って疲れが取れるとか農作業でついた細かい傷の治りが早いって喜んでますよ!」
「ありがとう、シズクが宣伝してくれたおかげでこんなに早く完成することが出来たよ」
シズクは温泉施設部分が完成した時に女性で真っ先に入って村の女性達に広めてくれた。最初はマイクさん達自警団で建設を行なっていたがシズクが女性達を味方につけてくれた事により、そこから村人達が協力してくれた事で加速度的に完成に至った。森から木を予定以上に切り出した事で母様からは鉄拳をもらってしまう事となった。
「ではユウリ様、私はミランダ様に呼ばれていますのでお屋敷に戻りますね」と言うと走って行った。
宿の前には二頭引きの馬車からせっせと荷物を下ろす男の姿がある。この少しぽっちゃりしている男はオラフ、村が出来た頃から行商に来てくれる馴染みの商人であり、王国東部の村々を周っている。オラフはユウリを見つけると汗を拭いながら走り寄って行く。
「ユウリ様このたびはオラフ商会をご利用頂き誠にありがとうございます。これでご依頼の品は全てとなっております」
上機嫌で話しかけてくるのは釘や塗料、布や布団に至るまで全てを一手に任せたからである。資金はフォースベアの毛皮と魔石それにウォード卿から学院の生活資金として渡された金貨十枚、先行投資ということで全額使わせて貰った、学院には温泉宿が軌道に乗らなければ特待生を狙うつもりである。
スフィーダ王国の貨幣を前世と比較すると
銅貨=100円 銀貨=1,000円 大銀貨=10,000円
金貨=1,000,000円 白金貨=100,000,000円
となっている、白金貨は国家間の支払いで使われるか国有数の商会くらいしか使われない。
マイクさんが搬入された荷物を奥さんと確かめ報告に来てくれる。
「ユウリ様全て問題無く納品されましたぜ!」
これで後やる事は客を呼ぶだけだな。
「オラフありがとう、確かに受け取ったよ」
差し出された紙にサインを書いていく。
「では私はこれで失礼します。今後ともオラフ商会をお願い致します」
オラフは上機嫌に護衛の傭兵と馬車を走らせて行く。
備品の確認を終えたマイクさんが案内してくれるようだ。
「ではユウリ様、案内しますね」
マイクさんが先導しながら各所の施設を確認も兼ねて見て回る。
宿の外観は昔ながらの前世の旅館に近く平屋造り、壁は白を基調として柱は黒く窓は
「ユウリ様東棟の温泉施設は問題なく稼働しているので明日からまた開放しようかと思ってます。ですが西棟の宿泊施設はどうするのですか?」
「まずは東のロブスト砦に宣伝に行こうと思ってる」
ロブスト砦はシルワ村から四時間程の位置にある隣国との停戦が切れる六年後に備えて大規模な改修が行われている。常時千人以上の兵が常駐しており改修の為の資材の運搬の為に商人と傭兵そして作業員が居る。
「ロブスト砦ですか?呼び込みに行くにはいいと思いますが宿泊施設は幾ら大規模といっても大部屋で雑魚寝して貰っても百人が限界ですよ?」
「最初に百人なんて集まらないだろうし少しづつ増えていってくれれば十分だよ。急に大挙して来られても食糧が足らないしね」
マイクは宿泊施設側の案内をしながら確かにと笑っている。
「夏場は宣伝程度で良いんだ。村の冬場の現金収入になってくれれば良いと思ってね、施設の維持を考えると三年、俺が学院か何処かの従士見習いとして村を出るまでに成果が上がらなければ縮小して外からの客は諦めて村の施設にする」
マイクはユウリ様なら大丈夫ですよ。っと何故か自信あり気に笑っている。
母様とシズクが歩いてくる。母様は笑ってシズクは顔を赤くしている。また母様がシズクを揶揄ってるんだろう、二人はこちらを見ると歩み寄ってきた。
「ユウリ完成したんだってね、さっそく入らせてもらうよ」
母様は着替えの入ってるであろうバックを持ち上げこちらに掲げてくる。
「母様お湯を張ってはいますが今日はまだ空ける予定はありませんよ?」
「なんだいケチくさいね!お湯が張ってあるなら今日開放して皆に使わせてあげな。後は肉も準備してあるから皆で食べな!ユウリ今日は私らは参加せず村の皆で騒がせてあげなよ、そっちの方が皆の意見をマイクが集め安いってもんだ」
マイクが「ミランダ様直ぐに準備致します」と母様を促し温泉宿に入っていく。
シズクが軽く口に手を当て笑いを堪えている。
「ミランダ様はユウリ様が村の人に認められて嬉しいんですよ。皆を労うために今日は朝から森に行って狩をされて下処理までなさったんですよ」
母様がそんな事を・・・
「母様にもシズクにも本当に感謝してるよ」
「いえ、私はそんな何も・・・では私も温泉に入ってきますね!」
シズクは少し赤くなりながら走って母様の後を追って行った。
屋敷に帰り刀を振る、あの時見たエドワードの剣筋を真似るように、頭に残る刀の軌跡をなぞる様に。
ふう、中々上手くはいかないな・・・
刀を鞘に納め屋敷に入り刀のメンテナンスをする、と言っても特に何かをしなくても刀身保護の効果で傷などは無い。
だが布で綺麗に拭いていく、心なしか刀身の微かな青みが
日を追うごとに綺麗になっていく気がする。
そうだ、何か母様とシズクにお礼の料理でも作ってみるか。
イノリ《
ーーマスターご用件を
母様とシズクにホットケーキでも作ってあげたいんだが確か炭酸水を使ったレシピを昔見た気がするんだけど分かるかい?
ーー該当1件 現在入手可能な材料に置換 ベーキングパウダーの作成方法が不明瞭、仕上がりに差が出ますが重曹で代用。ホットケーキ(仮)のレシピが完成
よし、じゃあ作るか!指示を頼む。
食堂の隣にある厨房に入っていく、母様とシズクが戻った時に分かる様に扉は開けておく。
ーーグルテンの少ないクッキー用の小麦粉をふるいにかけ4分の1程度の砂糖と少量の塩と重曹を使用。
これでホットケーキミックスの代用を行います。重曹を使用することにより綺麗に膨らまない可能性が存在します。
そこは仕方ないよな上手く焼けることを祈ろう。
ーーそこに卵1〜2個、生クリーム又は牛乳を入れ炭酸水を混ぜて焼いてください。
走るか・・・ユウリは魔力を巡らせ全速力で瓶を持ち炭酸泉から水を汲み急いで戻る。
はあはあ、これで焼けば良いんだな。イノリ有難うこれでなんとか出来そうだ。
ーーお役に立てて光栄です。ではスリープモードに移行します。《
フライパンが熱を持ちぷつぷつと気泡が出来て何処か懐かしさを感じる良い匂いがして来る。その時、玄関の扉が開き声が聞こえてきた。
「いやーやっぱ何度入っても温泉ってやつはいいね!兵士の呼び込みに行くってユウリが言ってたけどあれなら客が来そうな気がするね!」
「そうですね、私も毎日入りたくなっちゃいますよ!」
母様とシズクの声がする温泉を楽しんでくれたようだ。
「何だか良い匂いがするね!ユウリなにか作っているのかい?」
「ちょっと炭酸水を使って簡単なお菓子を作ってるんだ、二人に食べてもらおうと思ってね」
二人が興味深そうにこちらを見て来る。
「美味しそうですね!私はお茶の準備をしてきますね!」
パタパタとシズクが嬉しそうにティーセットを出しお茶の準備をし始める。
「じゃあアタシは楽しみに座って待ってるとするかね」
シズクがお茶の準備を終え母様の横に控えている。
「よし!綺麗に焼けたな、今日はシズクも座って食べて欲しいんだ」
「ユウリ様そんな、私は後で頂きますので・・・」
「シズク、ユウリが折角作ってくれたんだ温かいうちに食べてあげな」
シズクが申し訳なさそうにそう言うと母様がシズクを座るように促した。
「はい!では失礼します、本当は暖かいうちに食べたかったんですよね」
ホットケーキを皿に盛り保存されている野イチゴで作られたジャムを掛け二人の前に並べていく。
「おお!コイツは美味いね!普段は噛みごたえのあるものが好きなんだがコイツは別腹だね!後でシズクに作り方を教えておくんだよ!」
母様の分は多めにしておいたのだが凄い勢いで皿の上のパンケーキが無くなっていく。
「ユウリ様!これふわふわでとっても美味しいですね!私今まで食べたものの中で一番好きです!」
シズクは美味しそうに食べてくれている、それだけで作った甲斐がある。ふと母様の方を見ると目があった。
「ユウリ食べないならアタシが貰ってあげるよ!まだ足らなくてね!」
「母様まだ生地はありますので今焼いて来ますね。間違っても俺の分を食べないでくださいね」
分かったと言いたげに手を振る母様を横目にホットケーキを焼き始める。すると玄関の呼び鈴が鳴る。
「お客様のようですね、御用をお伺いして参りますね。」
シズクが立ち上がると母様が呼び止めた。
「あー確か帰って来る日だったね、アタシが出迎えるからシズクはお茶を入れてきな二人分だよ」
「分かりました、ユウリ様お客様がお見えにられた様ですので扉を閉めておきますね」
厨房と食堂を仕切る扉をシズクが閉めてお茶を沸かし始める。「ユウリ様、今度レシピ教えて下さいね」とシズクが微笑んでくる。「いいよ」とホットケーキを皿に盛りながらか答えていると食堂から聞き覚えのある声が聞こえた。
「これは!美味い!!」
聞き覚えのある声に盛りつけ終わった皿を持ち扉を開けた。
そこには冬から半年間、砦での合同演習に出ていた従士長のハインツが美味しそうにパンケーキを食べ、その横に我関せずと素知らぬ顔で母様に報告をしているブレンダの姿があった。
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