Sideマイク
Sideマイク
春になり麦畑は一面緑に染まり、よく晴れた空には鳥が飛び隣りには結婚したばかりの嫁がいる。世界が明るく見える。
俺はシルワ村自警団団長のマイク、今年で42である。三年前までは酒場に入り浸っていた典型的なDランクの傭兵だったが行商の護衛で何度かこの村を訪れている内に今の嫁さんと出会いこの村に落ち着き傭兵だった頃の経験を買われ自警団の団長になった。
「ねえダーリン」
妻が腕を組み話しかけてきた。
妻は十五年前の戦争が終わるまでは隣国で奴隷として扱われこの村の領主であるミランダ様が東にあるかつての隣国の砦を落とし、その時解放されその恩に報いるためこの村で働いていた。
「何だいハニー?」
「この街道と麦畑の境の小屋懐かしいわね。ダーリンが私を凶暴な魔物から守ってくれた運命の場所よ。」
妻は此処でEランクの魔物、ワイルドボアに襲われていた。
俺はDランクの傭兵であり何とか苦戦しながらもワイルドボアを仕留める事が出来た。そして妻には俺が運命の相手に見えたようで今に至る。
「勿論だよハニー忘れる訳無いじゃないか。」
妻との散歩を楽しんでいると村の北側にある森から村の西にあるこの麦畑に馬が走って来る、外套で顔が見えない。
「おーい何かあったのかー?」
困り事かと思い声を掛けると馬は俺と妻の近くまで馬で駆けてきた。何事かと見ていると馬の背に括り付けてあった1メートル程の大きな包みを肩に担ぐとそれを小屋に放り込んだ。
「ちょっとあんた何してるんだ!そこを動くな!俺は自警団団長のマイクだ話を聞かせて貰う!」
護身用に装備しているロングソードを抜きジリジリと距離を詰めていく。何やら目の前の男が何かを呟いている。
「ア哀レれな異教徒に救いいィいか、神ノ罰をカか、、神ののノ慈ぃ悲を供物をを捧げげぇよ」
その男は馬で駆け東の国境側に向かう、誰かに伝え無ければと村に帰ろうとすると小屋に投げ込まれた物の中身が少し見えた。
フォースベアの子供か、死んでるのか?何でこんな事をと考えていると獣の咆哮が聞こえて来た。
「ウガァァアアアァア」
フォースベアだと!?まさか親か!!
「ハニー直ぐにミランダ様に知らせてくるんだ!」
「嫌よ!ダーリンを置いてなんて行けないわ!」
「大丈夫さハニー、俺は元Dランクの冒険者だぜ!Dランクのフォースベア何かに負けないさ!」
妻は走って行った。だが悲痛な表情をしていた事から嘘がバレた事に気づいた。フォースベアには最低でも五人のDランクの傭兵が必要だと言われている。
少し警戒させて逃げるか、、魔力を全身に巡らせ斬り掛かる。
その時フォースベアの右手が消えた気がした、気づいたら地に倒れ右肩から血が流れている。地面に落ちた剣は根元から鋭利な金属で切断されたかの様に無惨に二つに分かれていた。
肩がジクジクと痛む。駄目だ殺される!そう思い小屋の外に立て掛けられた梯子を登る、途中フォースベアが爪を振り右脚を撫でていく。
何とか登りきったが右脚までも怪我を負い心が折れかけ、何処かに行ってくれと祈っているとフォースベアが地面の匂いを嗅ぎだし村の方を見た。
妻が狙われる!そう思った時勝手に声がでていた。
「クマ野郎!こっちだ!死んでも村にはいかせねえぞ!!」
フォースベアはこちらを向き足場である小屋を破壊し始める。その時、ユウリ様が駆けてきてフォースベアの顔に蹴りを放った。
ユウリ様の攻撃は効いておらずスカーレット家侍女のシズクちゃんまで来てしまった。子供達を逃がさなくては、そう思い逃げる様に促すが逃げてくれない。
その時ユウリ様の魔力が一気に上がるのが感じられる。
そこからのユウリ様は昔、俺が憧れた詩人に語られる傭兵に見えた。フォースベアの毛を断ち切るなんて俺達Dランクには出来ない、俺達は火炎魔石という魔力で小規模な爆発を起こす魔石で火に弱いフォースベアの毛を焼き長物や弓で少しずつ削る。あんな事が出来るのはCランク、壁を超えた者達だけだ。
その後の事はいまいち覚えていない。血を無くし過ぎたのか意識が朦朧としている中、村に帰ってきた。ユウリ様がミランダ様に抱えられて戻って来たのには驚いたが無事らしく一安心である。今回の恩にいつか報いたい。
ミランダ様と査察官様にフォースベアの子供を投げ込んで来た者の事を妻と報告に行くと深刻な顔をし
翌日は朝から宴会で酒は無しだがフォースベアの肉が途轍もなく美味かった。
その後ユウリ様がミランダ様に何やら温泉宿とやらを作りたいと言っていた、よくよく聞くと村の外れにある泡が出ている水を使って風呂を作り泊まれる場所らしい。
ミランダ様に反対されていたが森からの木材の切り出しなどを俺を始め自警団の連中で手伝うと申し出て何とか許可を貰った。ユウリ様は喜んで温泉が出来たら俺を総支配人とやらにしてくれるらしい。
この人は将来きっと大物になる。その時ジジイになった俺は酒場でこう言うんだ、ユウリ様と俺であの温泉を作り上げたんだと。
それが俺の新しい夢である。
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