騎士爵領立志編1ー3


 雲一つない空に暖かい日差しどこまでも青い水の上、そこに俺は立っていた。


「これは・・・夢か」


歩くと水面に波紋が走り何処までも続いていく。


「それにしても水の上に立てるなんて夢なのが勿体無いな。魔力を使えばできたりするんだろうか?」


 どうしたら夢から醒めるんだ?などと考えていると頭の中に声が響いてきた。聞き覚えのある澄み切った声が聞こえてきた。


「信頼出来る仲間を集めなさい、そして戦いに備えてね。今はまだ遠い未来だけどきっと必要になるわ」


 戦いとは、何が起きるんだ、戦争でも始まるのか?


「貴方ならきっと乗り越えられるわ」


 声が遠くなっていく。


「待って聞きたい事が」


 足元の見えない床が無くなったかの様に水の中に落ちていく、その瞬間目が覚めた。


 窓の外を月の明かりが照らしている。

 

 何だったんだ今の夢は、ベッドから起きようとすると全身の筋肉が少し熱を持って軽い痛みを覚える。


 痛っ・・・夜か、まず現状の把握をしておくか。

ベッドから起き上がり身体をゆっくり動かしながら魔力を少量ずつ動かし異常を確かめる作業を行いながらイノリを起動する。


 イノリ《起動アクティベート

 

ーーマスターご無事でなによりです。体に違和感などはございませんか?


 筋肉痛の様なものが全身に有るくらいかな。


 ーーその程度で済んでいるという事はシズク様が《修復リカバリー》を使用したのかも知れませんね。戦闘の興奮で痛みを忘れていたかも知れませんが本来であれば三日は安静にして頂くくらい筋繊維や関節にダメージが発生していました


 《願いの形フォームオブウィッシュ》の反動ってそんなに酷いのか?


 ーー《願いの形フォームオブウィッシュ》で上がった技術を使用するだけの体が出来上がっていません。魔力操作で一度に動く魔力を身体を受け止められる限界量も基本は同じで徐々に慣らすしかありません。今のマスターがBランク以上への上昇を行えば筋繊維は断裂し骨が折れ魔力が一時使用不能になります。小型車に大型のエンジンを積んで無理に走らせる様なものですね。


 ん?この世界にも車ってあるのか?


 ーー私に与えられているこの世界の知識では該当するものは有りません。私の記録データは起動中に取得した情報と一般的な知識、マスターの前世での記憶全てと祈りの加護の能力についてです。


 イノリ協力して欲しい、この村に作物以外の現金収入を持たせ無いとこのままではジリ貧だ。


 ーーマスターそれは良い考えです。フォースベアの襲撃っもありましたし、今後隣国との戦争の際にも村の発展はマスターの安全面を考慮すると必須といえるでしょう。

 

 コンコン

 扉がノックされる音がした。


誰か来たみたいだ。イノリ《停止インアクティベート》「起きてるよ。」と扉の向こうに話しかける。


 扉が開きそこには母様がいた。魔力の操作をしているとそれに気付き「元気そうだね」と入ってきた。


「ご心配お掛けしました。マイクさんは無事ですか?」


「マイクは無事だよ。それよりアンタの怪我だが後でシズクにお礼を言っておくんだよ、熱を出したアンタにリカバリーを何度も使ってぶっ倒れたからね。」


 シズクが倒れたそう聞いた瞬間焦りから立ち上がってしまった。

 

「シズクは大丈夫なんですか!?」


「慣れてないのに魔力を枯渇させたから倒れただけさ!安心しな。今日は起きないだろうから明日顔を見せてあげな。」


 一安心してベッドに腰を下ろすと「ミランダ殿そろそろいいかな」とエドワードが顔を覗かせる。その顔には悪戯っ子の笑みを浮かべていた。


「じゃあアタシは明日の宴会の準備をしとくよ。宴会って言っても酒は無しで腐る前にフォースベアをくっちまうだけなんだけどね!皆不安になっちまってるからね、こういう時は騒ぐのが一番なのさ、それにフォースベアの肉は美味いからね!」


 母様は陽気に笑い部屋を後にし変わりにエドワードが入って来た。


 立ちあがろうとするとそのままで、と手で制される。


「早速本題に入るけどお詫びに来たんだ、剣を折ってしまった事と無理をさせてしまって済まない。」


 エドワードはすまなそうにそう言った。上位の貴族が爵位も持っていない子供に詫びを言った。この事で本心からの言葉の様だ。そして「これを」と腰に帯びている刀を1本差し出してきた。


 「大脇差婀娜橋姫あだはしひめ 魔石は水の精霊の一種ルサールカの物、刀に興味が有った様だし折ってしまったお詫びも兼ねてね。」


 刀を受け取り鯉口を切る、刃は薄く青みがかっており柄は白一色に蒼の魔石が埋め込まれている。

 これは凄い物なのだろう。刀に詳しく無い俺でも一目見て惹かれた。

 

「ウォード卿、流石にこれは頂けません。」


「気に入らなかったかい?」


「そんな事はありません!」


「ならこうしよう、王立魔術学院を知っているかな。」


「はい、十五になる年に王国民なら誰でも試験に合格出来れば入学でき、男爵以上の爵位を持つ貴族家であれば試験が免除されるのですよね?」

 

 「うん、その認識で合ってるよ。そこに通って欲しいんだ。勿論試験に落ちたりミランダ殿に反対された場合も刀を返せなんて言わないから安心して欲しい。」


 入学する事がウォード卿に何のメリットがあるのだろうか?貴族といっても騎士爵家は試験の免除も無い為、多くはその地域の有力貴族家の従士見習いとなる者が多い。


「分かりました、それで良いのならお受け致します。」


「受けてくれて嬉しいよ、ベルトや整備の為の道具はミランダ殿に預けてあるから受け取っておいて、後は学院での生活費もね、魔石の効果に刀身保護があるから特殊な整備は無くても使えるからね。」


「ではこれで」とエドワードは扉に向かって歩く。


 エドワードの言葉に少し眉を顰める。

 これは上手く乗せられたな、道具を既に渡してあるならこの流れは筋書き通りって事か。母様に反対された事にして行かない方が無難か?


 扉を出る前にエドワードは振り向き笑いかけながらはなす。


「そうだ、刀の使い方に興味があるなら学院に行った方が良いよ、刀を教えられる講師も居るから。」

 

 エドワードはそれだけ言い残すと今度こそ部屋から出ていく。


 これはやられたな。あんな技見せられたら気にならないなんて嘘になる。それにあの夢も気になるしな、もしも何か起こるならもっと強くならなくては・・・

 

 ユウリは刀を机に置き嬉しさの余り痛む体でベッドに飛び込み刀を手に入れた興奮で中々寝られない夜を過ごした。

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