第26話 また逢いたい4
いつも同じファーストフード店で食事し、桜川の土手を公園まで歩くのが二人のお決まりのデートコースだった。
3回目のデートの時、振られるのを覚悟の上で思いきって勝負をかけてみたんだ。
「よかったら、交際してくれないかな?」
スーツまで染み出るほど、汗が全身から吹き出ていた。声も震えていたかもしれないね。
下を向いたままだった。小さな白い両手を後ろに組んでいた。桜色の薄手のカーデガンが白いシャツにとても似合っていた。
ほんのわずか10秒位だったかもしない。
でもねその時の私にとっては、永遠の時が流れたような長い沈黙だったな。
「だめ・・・・・です」
下を向いたままで里佳の声が流れた。
まあ、しょうがないかあ。こんな可愛い娘さんだから、俺じゃあ無理なんだよな。
年齢だってずいぶん離れているし、初めから無理だったんだよなあ。
下を向いていた顔を上げた。里佳の大きな瞳が真っ正面から私を見つめていた。
「私と付き合ってください。あなたの彼女にしてください」
可愛くて、優しくて、はっきりとした里佳の声が私の心に突き刺さったね。
「初めて会ったときから好きだったの。だから絶対に私からお願いするって決めていたんです」
何でなんだ? なぜ俺なんだ? こんな可愛い娘が、なぜ俺みたいなオジサンを。
児童公園からの帰り道、嬉しくて熱くなった手に、柔らかな小さな手をそっと繫いでくれたんだよ。
5月後、桜川から5分ほどの距離の新しいアパートが二人の我が家になった。
里佳は小さな会社の経理事務をしていた。小学3年の頃に両親は離婚し、母親と二人でがんばってきたと聞いていた。
お会いしたお母さんは、私と7歳位しか違わない里佳とそっくりの美しい女性だった。
半年後に里佳の母親の病室で式を挙げた。乳癌があっという間に進行し、検診で気づいたときにはもう手遅れだったんだ。
せめて命の炎が燃え尽きる前に、二人の結婚を見せたかったし、見てほしかったんだ。母親は式の5日後に満足したような微笑みを浮かべて天国に旅立っていった。
私の両親はともに病弱だったせいか早めに他界しており、近しい親戚もなく里佳と二人だけの生活が始まった。
私も里佳も子供をたくさん欲しかった。賑やかで明るく、楽しい家庭を作ろうねといつも話していたからね。
待ちに待った妊娠を知ったのが里佳と一緒になってから4年後。その間、2人はもう1つの目標だった『家を買う』ために必死に働き、無駄使いは控えてがんばった。
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