第25話 また逢いたい3
その時が里佳との初めての出会いであった。吸い込まれそうな大きな瞳が、恐怖から解き放たれて大粒の涙がこぼれ落ちた。
肩が震え、声も震え、泣き出すのを必死にこらえる姿がとてもいじらしかった。
花見の帰りに酔った男性に誘われ、無理矢理連れていかれるところだったらしい。こんなに可愛い女の子に、こんなに感謝されたことなど生まれて一度もなかった。
恥ずかしい話だけど、一目見たときから里佳をすっかり好きになってしまっていた。是非、お礼がしたいとのことで電話番号を聞かれたことも、ボーッとなっていてあまり覚えていないほどだったよ。
翌日の土曜日、独り暮しのアパートで眠り呆けていた布団の側で携帯が鳴り響いた。里佳からの電話だった。
よほど昨夜の出来事に感謝してくれたのか、わざわざお礼の電話だった。遠慮がちに、食事でも一緒にどうでしょうかという夢のようなお誘いだった。
慌てて飛び起きて、冷たいシャワーで目を冷ます。どうやら夢じゃないようだ。
何を着ていくか迷ったが、まともな外出着などタンスには入っていなかったので、やむを得ずスーツを着こんだ。
さすがにネクタイはしなかったが、鏡に写ったスーツにワイシャツのオジサン姿は、ちょっと悲しいものがあったな。
里佳とは駅で待ち合わせ、駅前のファーストフード店で昼食を済ませて、その後、桜川の土手を二人で歩いたんだ。
緊張しちゃってたから、ランチのハンバーグの味がよくわからなかったほどだったよ。店の支払は里佳がもつと言い張ったが、そこは男の面子もあって私が全額払った。
「ごめんなさい。私から誘ったのに、みんな出してもらっちゃって。この次は私が出しますから」
『この次は』の言葉が頭の中に響いた。
『また、会ってくれるんだ。たぶん、いや間違いなく、会うつもりでいてくれてるんだ』
もう飛び上がりたいほど嬉しかったな。
嬉しくて世界が桜色に染まったほどね。
初めて出会った桜川の土手を、桜の香りをのせた爽やかな風が吹き抜けていく。まるでテレビや映画のワンシーン、主役になったような舞い上がりそうな気分。
桜の木々で囲まれた土手沿いの小さな児童公園まで歩いたよ。昨夜の宴の場所にね。公園には何人かの花見客がいたが、我々と入れ替わりに公園を出ていった。
小さな公園を包み込むように取り巻く桜の木々が美しかった。その中でも一番樹齢が古そうな大きな桜の木が、満開の桜をまるで雲のように広げていたね。
仕事、趣味や好きな食べ物など色々話した。付き合っている人がいないこともね。
次の土曜日も、その次の土曜日も、里佳からの誘いでデートをすることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます