第24話 また逢いたい2

 春にはこの川を彩る川沿いの美しい桜の木々が地域名勝となっており、多くの人々がこの川を『桜川』と呼んでいた。


 川を囲む土手の各所で大小の花見の宴が

盛り上がり、花見時期には桜川は『花見川』などと揶揄されているほどだ。


 会社の花見も毎年同じ場所で行っていたよ。川沿いの土手の一部に作られた小さな児童公園が定位置となっていてね。


 当日は毎年、朝早くから若手社員が場所取りをするのが行事であり、この公園を使うメンバーも毎年決まった顔ぶれだった。


 私も19歳で就職した年から、先輩に連れられて場所取りに参加していたよ。


 翌年からは『場所取り主任』などと先輩方にからかわれながらも、朝早くからシートを担いでがんばったものだ。


 前日の帰りにシートを自宅に持ち帰り、始発に乗って公園に向かった。懐かしいな。


 宴会は夜の6時過ぎから始め、9時にはお開きになるのがルールとなっていた。近隣住民の静かな夜の時間を妨げないための暗黙のルールが昔から根付いていたからね。


 40歳を迎える頃には、私も努力が認められて係長に昇格したが、公園の場所取りは続けていた。


 この場所取りはいつの間にか私の役割になってしまい、60歳で退職するまで欠かさずに勤めあげたものだ。


 『場所取り課長』などと呼ばれてね。


 夜の9時30分ごろだったかな。宴の後片付けを済ませて、駅に向かって土手をひとりで歩いていた。


 すべての宴は自主的に既に打ち上げられ、照明が疎らな土手は、淡い月明かりが立ち並ぶ桜の木々を照らしていた。


 一緒に片付けを手伝ってくれた若手は、もう既に二次会へ向かっている。久しぶりに飲んだお酒のせいか、ほろ酔い気分で夜風が気持ちが良かった。

 

 土手の20mほど先に数人の人影が見えた。何か揉めているような予感がした。揉め事には巻き込まれたくなかったが、少し酔って気が大きくなっていたみたいでね。


 急ぎ足で人影に近づいていった。3人、なかには女性がいるようだった。女性ひとりに2人の男性が絡んでいた。


 男性のひとりが女性の左腕をつかんでいる。細かいことはわからないが、女性は嫌がって怯えているように見えたんだ。


 「おい、何やってるんだ」


 気は小さいし腕力もまったく自信がない。揉め事は子供の頃から大の苦手だった私が、酒の勢いで止めに入ったんだ。


 身長は175、体重も90キロほどある。しかも顔は、声をかけた親戚の小さい子供が怯えて泣き出すほど恐面らしい。


 いかにも格闘技でもやっていそうな体格と、子供を泣かす恐面のせいで、今までも他人から絡まれた記憶はまったくなかった。


 声も野太く大きいため、会社でも武闘派と誤解されていて困ったこともあったくらいだ。


 酒のせいか声がさらに大きかった。武闘派で恐面の格闘家から声をかけられ、男2人は慌てて逃げ出していったよ。

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