第23話 また逢いたい1

 最期をこの想い出の家で迎えられる。もう特に思い残すことなどなかった。いろいろあったけど幸せな一生であった。


 あと数日で80歳の誕生日を迎えるが、最近は寝たきりの状態が続いていた。今も身体のあたこちが痛むが、なんとか我慢できる程度である。


 2人でがんばって働いたお金で、やっと手に入れた小さいが夢の我が家。本当にうれしかったな。やっと2人だけの城を持てた気がして。


 2人で相談して、2階建ての1階を家族が食事をしたり寛ぐキッチンと居間、そして小さな風呂場、2階は2人の好きな本を並べる図書室と寝室とした。


 いつも休みの日には、私は居間でのんびり寛ぎながら、天井から聞こえる里佳の掃除をする足音を聞いていたものだった。


 小さい家ではあったが、私にとっては里佳との楽しい想い出がつまった大切な宝だった。


 私が40歳、里佳が23歳の時に出会い、初めての出会いで、私は『この人と結婚する』と運命的なものを感じていた。


 もちろん里佳の方はどう感じていたかはわからないけどね。聞いてみたかったな。


 恥ずかしい話だが、私は夫婦なのに正面から目を合わせることが苦手だった。なんかとっても眩しい感じがしてね。


 大好きだったんだね。恥ずかしくて真っ正面から目も合わせられないほど。


 ふふふふ。笑っちゃうけど、大きな瞳に見つめられるとドキドキしちゃうんだよ。


 里佳がテレビを夢中になって見ているときは、里佳の横顔に見惚れていたものだよ。


 惚れていたんだ。すごく愛していたんだね。休みの外出時は、恥ずかしいけど必ず手をつないで出かけたものだよ。


 私の方からは恥ずかしいから言い出せなくて、いつも里佳の方からそっと重ねてくれる手の温かさが今でも残っている。


 私も働いていたし、里佳も働いていた。

2人とも平日は、結構忙しくて残業もかなりしていたから、帰宅して顔を合わせるのは毎日夜の10時過ぎだった。


 それから毎晩、1時頃まで話をしていた。毎朝、眠かったなあ、2人とも大あくび。週末は必ず2人で買い物、お出かけ、家でゴロゴロしてるときもいつも一緒だった。


 出逢ったのはちょうど桜の季節だったね。その年は、冬が名残を惜しむように寒い日々が続き、春が遅い年だった。


 桜の開花もかなり遅れ、4月に入ってやっと満開になり人々の目を楽しませていた。


 桜の満開を待って、金曜の夜には仕事を早めに切り上げて、職場をあげての花見の宴を催すのが例年の決まりとなっていた。


 社員が20人程度の小さな会社なので、社長以下大半の職員が参加する大宴会だった。私も普段はほとんど酒を楽しまないが、この花見宴だけは楽しみにしていた。


 会社がある街には、川幅は広いが今は水量も少くなっている川が縦断していた。昔は流れが穏やかで静かではあるが、水量も多く美しい川だった。

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