第22話 時は廻る6

 リビングに置かれたテレビが大事故のニュースを報道していた。青信号で交差点を通過中のバスに、居眠り運転の大型タンクローリーが激突したというニュースである。


 タンクローリーに積載されていたガソリンに引火して大爆発が起こり、大事故を起こしたいう報道であった。


 事故を起こしたタンクローリーの運転手はもとより、衝突されたバスの運転手、そして乗客13人のすべても大爆発に巻き込まれ命を落としたという。


 凛音がいつも帰りに利用する路線バスであった。総合病院前の停留所を16時20分に発車したあのバスであった。


 「嫌だわ!もう怖い!りおちゃんのいつも乗るバスじゃない。りおちゃんが万が一乗っていたら・・・・・」


 ほんとだ。今日、私が乗らなかったあのバスだ。次に来た16時40分発のバスが珍しく10分以上も遅れて来たし、そのうえいつもの道を迂回して帰ってきたのは、その事故のせいだったんだ。


 全然、知らなかったよ。

 こんな大事故が起きていたんだ。

 もし今日、凛音があのバスに乗っていたら・・・・・


 驚きとショックで涙ぐむママに、制服のポケットにいつも入れてある予備のタオルを差し出した。


 あれ、新しいタオルだ。とても可愛い。

赤い地に桜が刺繍された小さなタオル。なんかリオちゃんのタオルとすごく似てるな。不思議・・・・まるで同じタオルみたい。


 「ありがとう、りおちゃん。どう?このタオルとっても可愛いでしょ。桜の花の刺繍がとっても素敵なの。タオル美術館で偶然見つけたから買っちゃったの。それから気がついた?りおちゃんの名前も刺繍したのよ」


 凛音、全然気がつかなかったよ。毎日カバンにタオルを入れ、さらにスカートのポケットにも予備のタオルを入れておくことにしているけど。


 もう泣かないでよ、優しいママ。

 ちゃんと凛音は今ここにいるんだから。


 『凛音、良かったね・・・・・』


 凛音が通学に毎日利用しているバス停は、ちょうど大きな桜の木に囲まれた公立総合病院の入口の前にある。


 病院入口にそびえる太く大きな桜の木の下で、微笑む凛音にそっくりなあの可愛いリオちゃんの姿が頭に浮かんだ。


 一緒にいた時は声は聞くことはなかったが、絶対に間違いないよ。あのリオちゃんの声だった。頭の奥で聞き慣れた、まるで自分自身に語りかけるような声だった。


 満開の桜の木の下、時も廻る・・・・・

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