第21話 時は廻る5

 明るく射していた太陽が少し優しくなった気がする。地面にはっきりとついていた日向と日陰の境界が徐々に薄くなっていく。


 いっぱいに咲き誇る桜の花たちも強い陽射しがすこし弱まったせいか、桜色が増したような気がした。


 元気に外で遊んでいた子どもたちが、そろそろお腹を空かせて自宅へ急ぐ姿が微笑ましい。


 いつもと同じやさしい夕暮れの足音が、静かに聞こえてくるようだ。


 腕時計を見ると16時18分を示していた。もうそろそろいつも乗るバスが来ちゃう時間だな。


 「ごめんね。リオちゃん。もっと一緒にお話をしたいんだけど、私そろそろ帰らなくっちゃ。もうすぐバスも来ちゃうから」


 リオちゃん、なんかとても寂しそう。

 ううん、違う。なんかとっても哀しそうなの。


 まだ帰らないでって口に出して言えないけど、じっと私の顔を見てるもん。心の中で帰らないでって思ってるのかな?


 「リオちゃん、もう少し一緒にお話しようか?」


 私の質問にリオちゃんは頷きはしなかった。でも首を横には振らなかった。一緒に居たいと表示はなかったけど、リオちゃんの大きな瞳は嬉しそうに輝いていた。


 私もなんとなく、もう少しリオちゃんと一緒に居たかった。なんとなくまだ帰りたくなかった。だってまたいつ会えるかわからないし。


 予定通りの時刻にバスは到着した。バス停の近くに佇む少女の姿を見かけて、総合病院前に一時停車した。


 ドアを開けて時刻を待ったが、少女が乗る気配を見せなかったため発車した。


 次のバスは16時40発であったが10分ほど遅れてバス停に到着した。リオちゃんに別れを告げてバスに乗り込む凛音。大きな瞳がとても嬉しそうに送ってくれた。


 また会えるよね。絶対にまた会いたいよ。リオちゃん、ずっとずっと友だちだよ。


 バスは迂回してさらに遅れ、自宅にたどり着いたときは17時を大きく回っていた。


 「お帰りなさい、りおちゃん。今日は、ずいぶん遅かったのね。何か学校であったのかしら」


 「ううん、クラス委員だから担任の先生と新学期の打ち合わせしてたんだよ。なかなか終わらなくて疲れちゃった」


 「そうだったの、お疲れさま、大変だったのね。シャワーでも浴びて着替えてきたら」


 「うん、ちょっとひと休みしてからでいいかな。ママ、喉乾いちゃった」


 「もう、りおったら子供みたいね」


 冷蔵庫に冷やしてあるコーラを出してテーブルにグラスと共に並べて置いた。

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