第19話 時は廻る3

 凛音が両手を目一杯に伸ばしても届かないほどの、太く立派な桜の木が病院の入口にそびえている。


 病院入口の横のバス停で女の子が一人桜の花を見上げていた。ちょうど凛音と同じぐらいの年頃かな?背の高さも凛音と同じぐらいだろうか。


 ちょっと恥ずかしかったけど、勇気を出して声をかけてみた。


 「こんにちは」


 ちょっと驚いたように振り向いた少女の顔が、眩しそうに微笑んだ。何か初めて会った気がしなかった。


 清潔そうな真っ白のシャツに真っ白なスカート。それに真っ白のニットの帽子。カラフルではないけど、清潔でとても清楚な感じがする少女である。


 「桜の花、とっても綺麗ですね。私も、桜の花って大好きなんです」


 白い少女は、凛音の話に声を発せず小さく頷いた。


 年頃はたぶん同じぐらいだろうか。でも同じ学年じゃないないと思う。だって学校で一度も会ったことないもん。


 じっと見てるけど、お話はしたくないのかな。突然声をかけられて迷惑だったのかな。でもたぶん嫌がってる感じはしないと思うけど・・・・・


 あっもしかして、お話ができないのかな。何か喉の病気があったりして、声が出せないのかもしれないな。


 でも、失礼だからそんなこと聞けないし。あーん、どうしたらいいんだろう。


 自分から声をかけたのに、いろいろな思いが入り乱れて黙ったまま立ち尽くしてしまった。


 でも、絶対に嫌がっていないと思うの、この子。私の言葉をじっと待ってるみたいだもん。思いきってまた声をかけてみた。


 「あの、もし間違ったらごめんなさい。私とお話がしたくない訳じゃないよね?」


 白い少女は、小さく2度黙って頷いた。


 「良かった、迷惑じゃなかったんだ。あの、もしかして喉が痛くて声が出せないのかな?」


 ちょっと困ったような顔で小さく頷く少女。やっぱり、そうなんだ。この子は声が出せないんだ。


 とっても可愛い顔をしている。目が大きくて、小さな鼻、ぷっくりして可愛い口許。間違いなく美少女である。


 でも、でも顔の半分が火傷の跡なのだろうか、痛々しくひきつれが残っていた。


 でも何かとっても懐かしいような、昔からの知り合いみたいな、そんな気がする。


 「私、凛音っていうの。ほら、すぐあそこに見える高校あるでしょ、あそこに通ってるんだよ。よかったら名前教えてくれないかな。嫌じゃなかったら、お名前を教えて欲しいな。あ、ごめんね。声出さなくても大丈夫だよ。何かに書いてくれれば」

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