第18話 時は廻る2

 休みの日は家族揃ってお出掛けすることが多いが、両親の都合によりひとりでお留守番することもある。


 そんなときは、クリスマスに父親から贈られたお気に入りの小さなデジカメをぶら下げて、あちこち散策する。狙う被写体は凛音が好きな大きな花とぽっかりと空に浮かぶ白い雲である。


 花の中では特に桜が一番好きで、桜の季節にはPCに保存されている写真も、大半の被写体が桜ばかりであり、桜色に埋もれてしまうほどだ。


 凛音が住む東北他方は4月とはいえ、今年はまだ寒い日が多く桜の開花も遅れていた。何日か前からようやく暖かい日が続き、一気に桜色の世界が日本の各地で拡がりつつあった。


 花の中ではやっぱり桜の花が一番好きだな。梅は美しいけど何かちょっと寂しげな感じがする。菊は凛々しいがちょっと上品過ぎるかな。


 凛音は清楚で優しげな桜の花が大好きだった。満開の桜の花ってなんか神秘的だしね。


 凛音の住む家から徒歩5分ほどの距離にバス停があり、そこから毎日15分程路線バスに乗車して通学している。


 いつも下車するバス停は総合病院前という名称であり、大きな公立総合病院の前にある。


 病院は広い敷地のなかに建てられており、受付や外来患者を扱う本棟と入院患者を収容する別棟に別れている。


 広い病院敷地内は、緑が鮮やかな芝生と四季を彩る様々な樹木や草花に覆われている。


 敷地の周囲には立派な桜の木が植えられており、春には入院患者の心をなごませ、近隣住民も満開の桜を楽しみにしていた。


 凛音が利用しているバス停は、ちょうど大きな桜の木に囲まれた病院の入口の前にある。桜の花が好きな凛音はバスが来るまでの間、桜を楽しむのが大好きであった。


 学生たちや病院利用者が多く利用する、朝の8時台と夕方の15時から16時の間は10分おきに発着するが、それ以外の時間は20分間隔であり、学校の行事などで帰りが遅れて4時のバスに乗り遅れると16時20分まで桜を眺める時間となる。


 みんなからの推薦で新しくクラス委員になった凛音は、新学期の細かな打ち合わせを担任と済ませて学校を出る頃には、既に15時50分を回っていた。


 急がなくちゃ! 急いで荷物をまとめて校門を出たところで、残念ながら16時発のバスが凛音の目の前を通り過ぎていった。


 『あれー残念、あとちょっとだったのに間に合わなかった。まあいいか。桜をゆっくり見れるから・・・・・』

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