第12話 青い家2

 通常、公園に棲む路上生活者たちは、公園管理者や警察から立ち退きを迫られるのが一般的であるが、なぜか先生は公園を生活の場にしていた。


 公園内に散らかるゴミの清掃や公園回りの歩道の清掃を毎日欠かさず行い、こどもたちの見守りも行っている、まるで公園の管理人の様な役割を担っていた。


 公園管理者が警察に話を通してあるのかもしれない。交番の警察官が毎日、朝夕定期的な巡回を行う際にも必ず先生に一言挨拶していく。


 「先生、こんにちは。今日は特に変わったことはありませんか?」


 「はい、今日は特に問題なしですよ。こどもたちも元気に遊んでいますよ」


 こどもたちが事故にあったり、事故を起こしたりした際には、先生が公園から100mほど離れた交番に駆け込んで連絡を行っていた。


 そんなことが何度かあり、交番勤務の警察官たちとも今ではすっかり顔見知りとなっていた。


 公園で遊ぶこどもたちの親たちにも信頼があり、地域住民たちも公園を通り抜けたり、こどもと遊ぶときに、先生と出逢えば挨拶を交わすのが日常であった。


 先生は、公園の清掃やこどもたちの見守り以外には特に仕事はしていないようである。ほんの僅かな額ではあるが年金のみで生活をつないでいるという噂である。


 公園の道路の向かい側にコンビニがある。こじんまりとした店であるが一通りの品揃えはあり、先生も食料や最小限生活に必要なものなどの購入は、このコンビニに依存している。


 コンビニの店長も先生とほぼ同年輩と見受けられるが、店長もすっかり先生とはお馴染みであり、賞味期限ギリギリになった弁当などはレジで値引きするなどの好意を見せていた。


 すっかり地域に溶け込んでいる先生ではあるが、顔見知りの人々とも必要以上に話をすることもなく自分の生活を守っていた。


 青い家は、もともとは先生が一人きりであった。今年の3月初め、桜の木々さえも凍えそうな季節外れの霙雨の夜、公園に小さな段ボールが捨てられていた。


 コンビニで値引きされた弁当を買い、青い家に戻る途中の先生に、段ボール箱が声をかけてきた。暗い公園の片隅で微かな声が聞こえるたような気がした。


 今夜は霙混じりの雨降りだし冷えるので、段ボールは明日の朝片付けるつもりでいたが、なぜか呼ばれている気がしたので、ずぶ濡れになった小さなダンボール箱をの中のぞきこんだ。


 真黒な毛玉のような小さな命が寒さにブルブル震えていた。

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