第10話 永遠の愛6

 「えーもう名簿作成か、早いな。じゃあ、今日は終わりにしてもう帰ろうよ」


 「はい、じゃあ片付けます」


 『駅まで50分も歩くと終電まで間に合わないかもしない。タクシーを呼ぶしかないな』


 5分足らずで片付けてタクシーを呼んだ。駅からの迎車のため、通常は20分ほどで施設の門の前に到着する。


 玄関から門までは100mほどの距離である。幅3mほどの舗道の両側に並ぶ満開の桜が、白い月明かりを桜色の明かりに変えている。


 日中は汗ばむほどだが、この時間になるとかなり冷え込んでくる。肌寒いほどだ。真歩と二人で門まではゆっくり歩いた。


 「桜、すごく綺麗!」


 立ち止まって満開の桜を見上げる真歩。長い黒髪に月明かりが淡く当たる。見上げる横顔が、長い睫毛が、鼻が、小さな唇が桜色の月明かりに輝いている。


 桜色に染まる真歩を見て、思わず胸の奥の方が軽くそして快く痛む。心の奥で、小さいが暖かな灯が点った。


 『綺麗だ。桜の女神みたいに・・・・・』


 「二人だけのお花見、うれしい」


 聴こえないくらいの真歩の声だった。桜色の明かりのなかで薄手の白のセーターが寒さのせいだろうか、微かに震えて見えた。


 「真歩ちゃん、寒いんじゃないか?」


 「ちょっとだけ、でも大丈夫です」


 いつもはこんなことはしないけど・・・・・

 左腕に抱えていたジャケットを、月明かりで桜色に染まる真歩の細い肩にふわりと掛けてやった。


 驚いたように見上げる真歩の瞳の中に、少しだけ照れた自分が写っていた。


 「係長の匂いがする。とっても優しくて暖かい匂い」


 桜の甘い香りが、気づかなかった小さな想いを耳に運んだ。月明かりで真歩の頬が桜色に輝いていた。


 タクシーが到着するまでの5分たらずの二人だけのお花見だった・・・・・


 自宅に着いてからも、なぜか心臓の鼓動が大きい。眠れない夜、時計はもう4時を指していた。


 永久に続く幸せなど、無いのかもしれない。

 壊れない愛など、無いのかもしれない。

 消えない命の火など、無いのかもしれない。

 散らない桜の花など、無いように・・・・・


 夢なのだろうか?母親が微笑んでいた。父親ががんばれって言っているように見えた。


 大切なものを見つけ、一番大事なものに気づき、全てをかけて護って今を生きよう。


 携帯の電話帳からアドレスを探した。今の素直な自分の気持ちを、メールに打ち込んだ。桜の花びらのスタンプを添えて。


 『送信ボタン』を、そっと押した・・・・・

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