第8話 永遠の愛4
新年度に向けて、人事関係の仕事で連日残業続きであった。担当の真歩と係長の明雄が残り、4月1日に行う人事異動等の発令の最終準備を行っていた。
幸子も新年度に備え担当の福利関係事務に忙殺され、このところ連日残業を行っていた。さすがに疲れたせいか体調が不良というので、今夜は20時前には帰したところであった。
管理係の業務は施設内職員の人事、給与をはじめ、福利厚生、入所者の措置費の歳入処理、施設運営に関する諸経費の支出、建物の維持管理など多岐にわたっている。
この施設は、地域開放型の試みを担う新たな施設として創設されたため、日中は日々多数訪れる議員や近県の福祉関係団体などからの見学対応にも忙殺されていた。
施設見学の対応は、本来は地域係の職務ではあるがあまりにも見学者が多く、地域係のみでは対応不能のため、日中は庶務担当の管理係長である明雄はバックアップにも囚われていた。
明雄も真歩も幸子も連日、残業するのは当たり前となっていた。定時退社時間が早くても21時であり、最終バスで駅に向かうのが日常の帰宅コースとなっていた。
当然、忙しい時期は0時過ぎまで残業することもあるが、真歩と幸子は若い女性である、遅くても22時には帰るように指示していた。
「係長は帰らなくて大丈夫なんですか?」
黙々と仕事を続けていた真歩が、パソコンから手を離して声をかけた。
「ああ、俺は大丈夫だよ。それに、なんとか4月1日の人事異動の発令準備をまとめたいからね。真歩ちゃんは、そろそろ引き上げなさい」
「まだ大丈夫ですよ。それに人事異動の発令書の作成が、まだ終わってないですから」
「発令書の作成は俺が後を引き受けるから。発令のスケジュールはなんとか出来上がったし、後は俺に任せて帰りなさい」
「でも、もう最終バスには間に合わないし」
長い髪を細い指でかき上げながら微笑む。今日の午後から無駄話は一切しないで黙々と仕事をしていた真歩なので、何かずいぶんと久しぶりに声を聞いた感じだった。
「そうか、また最終バス逃しちゃったか。毎日残業ばかりで遊びに行く時間もとってあげられなくて、本当にごめんね」
「しょうがないですよ。仕事が忙しいのは、係長のせいじゃないですから」
若いのに連日残業続きなのにイヤな顔ひとつせずに黙々と仕事をしてくれる真歩と幸子には感謝していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます