第7話 永遠の愛3
施設は福祉系職員は数人のベテラン職員を除いては若い女性職員が多く、忙しいが仕事中も昼休みも明るく華やいだ職場である。
昼食は近くのコンビニに弁当を買いに行くのがほとんどであったが、週に1度、金曜日だけは施設長と管理課長、地域係長と明雄の4人で蕎麦屋に行くのが決まりであった。
「中村君も、いつまでも一人で居ないで、もうそろそろ身を固めなくちゃあね」
顔を合わせる度に施設長からは言われている。ましてや金曜日の定例昼食会では、課長からも地域係長からも言われ続けている。
けっして女性が嫌いな訳じゃない。人並みに好きではあるが、なぜか今まで偶然に縁がなかったのだ。
今の歳になるまで、何人かの女性と付き合った経験もあるし、その度に真面目に結婚も考えてきた。しかし、いつの間にか何となく別れてしまっている。
女性との交際期間は2年から3年程度で短い方ではない。しかしなかなか結婚まで至らないのだ。明雄は相手を愛しているし、相手の女性もまた明雄を愛してくれている、そんな関係ではあるが、なぜか別れてしまう。
明雄自身に、結婚に踏み切るだけの自信がないからかもしれない。愛し合い仲が良かった両親。突然亡くなった父親、そして父親の後を追った母親を思い出す。
愛し合っていても突然の死により、愛が壊されていく。両親がそうだった。愛する人を残して突然死を迎える無念さ、残した愛する人を護れない悔しさ。残された後の哀しさ、そして辛さ。両親を思い出す度に、いまも胸が痛む。
愛する女性と共に生きる喜びよりも、いつ襲うかわからない不幸への不安が大きい。当たり前だが誰もがいつかは死ぬ。頭では理解できるが不安を消し去ることができない。
『一生、独身なのかなあ。まあ、それでもしょうがないかな』
その事を考えると、自分自身で出した結論ではあるが、口に含んだコーヒーが苦く香る。
明雄の職場においても、やはり年度末や年度初めは特に忙しい。この時期の疲れ果てた父親の背中が、ほろ苦く思い出された。
壁の時計は21時をとうに過ぎていた。窓の外は静かで重い闇のみが漂っている。
「真歩ちゃん、もう9時だよ。そろそろ引き上げたほうがいいぞ」
施設は都内の南部の片隅にあり、唯一の足であるバスで駅から25分ほど乗車し、バス停からはさらに5分程度歩く。
駅までの最終バスは21時30分であり、それを乗り過ごすと、後はタクシーか暗い道を徒歩で50分位歩く以外に方法はない。
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