第5話 永遠の愛1

 眠れなかった・・・・・


 何とか眠ろうと努力してみた。

真っ暗な部屋のなかで、目を瞑って羊を数えてみた。でも眠れない。


 今日はかなり肌寒い。ついこの前まで暑い夜が続き、もう布団は片づけてしまった。だから掛けているのは毛布一枚だけ。


 『寒いから、眠れないのかな?毛布1枚じゃ、今日は無理かな』


 でも今から起きて、押し入れから布団を出してくるのは面倒である。毛布のなかで身体を丸めた。


 『くそ、眠れない』


 本当は分かっていた。寒いから眠れないわけではない。気になってしょうがないのだ。


 『あの言葉どういう意味なのかな』


 明雄はもう40歳になった。みんなにからかわれるが、3月3日の雛祭りが誕生日である。早くから自立し一人で暮らしていた。


 父親は高校3年のときに55歳で既に他界している。母親は、父親の後を追うようにその一月後に自らの命を絶った。父親の仕事時間以外は、いつも一緒に寄り添う、とても仲が良い両親だった。


 父親は他に持病は無かったようだが、200を超える高血圧のせいか、2ヶ月に1度は病院に定期的に通い、降圧剤を使用していた。


 仕事が忙しい年度末には、毎日0時を過ぎて残業し帰宅する父親と、ほとんど顔を会わせたことがなかった。1時前後の深夜に帰宅して、朝は6時前に家を出ていくのが常であった。


 多忙極まる年度末や年度始めを除いても、愚痴ひとつ言わず毎日遅くまで黙々とがんばる父親の仕事ぶりは、男として逞しく明雄の尊敬の対象ではあった。


 3月の最終週のある日、連日の激務に疲れ帰宅した父親が、珍しく夜食を摂らず倒れ込むように床についた。


 翌朝、久し振りに見た父親の目覚めることがない寝顔は、穏やかで安らかなものであった。過労による脳溢血であった。父の異変を気づかなかった母親は自分を責め、1ヶ月後に自ら愛する父親の後を追った。


 高校卒業時に両親を立て続けに失った明雄。入学した大学は、両親から残された財産で倹しく4年間を過ごした。


 就職は迷わずに福祉関係を選んだ。かっては仕事に打ち込む父の後ろ姿に憧れてはいた。しかし過労で命さえ失った生き方や出世を目指す競争の激しい仕事には、夢を見いだせなかったからだ。


 暖かな家庭に育ち、厳しい仕事によりその家庭を早く失った明雄にとっては、職場も家庭のような暖かみがある環境を求めた。


 大学在学中に見学したことがある社会福祉施設の雰囲気がとても心暖まるものであり、忘れられなかった。

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