第3話 桜色の夢3
博司は背も高く、明るく爽やかな性格で、老若男女誰からも好かれる男だ。
日焼けした男性的な笑顔に、心引かれている若い女性はかなりいる。ガールフレンドも多く、バレンタインデーには30個を超えるチョコレートが毎年届くほどだ。
でも未だに忘れられない。
大好きだったあの娘のことが。
可愛い女性や綺麗な女性は好きだ。格好いい女性も好きである。セクシーな女性も嫌いじゃない。しかし博司はやはり優しい女性に一番心引かれる。
今まで気になった女性は、当然何人かいるが、そのすべてがやはり優しい女性であった。
『よっぽど好きだったんだなあ』
時々、自分で苦笑いしてしまう。
いま、その憧れの女性が傍にいるのだ。
もう何度も何度も想い出しては、その度に決意していた。今度会えたら、必ず気持ちを伝えると。
勇気を出して踏み出した足の下で、桜の花びらが優しい音をたてた。かおるちゃんまで、ほんの3m程の距離だ。あと数歩でたどり着く。
暑くないのに顔が熱く火照る。
ダッシュの後の様に、心臓の鼓動が高鳴る。
喉がカラカラに乾き、掌も汗ばんでいる。
『どう声をかけようか?』
考えながら前に進む。一歩近づくごとに、かおるちゃんは昔の面影に戻っていくようだ。
若い女性から、高校生、中学生に。そして彼女の傍らに近づいた時には、あの頃の優しいかおるちゃんの姿に戻って見えた。
「こんにちは」
震えそうになる声を、何とか押さえてそっと声をかけた。驚いたようにこちらを振り返ったかおるちゃん。あの頃の顔で・・・・・
「覚えている?小学6年生の時に一緒だった博司だけど」
驚いたような表情に、可愛らしい微笑みが少しずつ拡がっていく。長い睫毛に囲まれた大きな瞳が、優しく輝いてくる。
良かった、覚えていてくれたんだ。なんか嬉しくて、胸の奥に熱いものがこみあげてくる。
「博司くんでしょ。声かけてくれるの待ってたの」
あの時のままの顔で微笑んでくれる。とっても優しい笑顔で。
「かおるちゃんとは、話をしたことなかったよね。どうして僕を知っていたの?」
「博司くんは、もう忘れちゃったのかな?2年生だった頃のこと」
2年生だった頃?何だろう?まったく覚えていないよ。
「博司くん、もう忘れちゃったんだね」
大きな瞳を驚いたようにさらに大きく見開き、頬っぺたを軽く膨らまして、ちょっと怒ったふりが可愛い。
「2年生になった4月の初めの頃だった、放課後、強い雨が急に振りだして、校庭の大きな桜の木の下で雨宿り。でも雨がなかなか止まなくて困ってた時に、通りかかった男の子が黙って自分の傘を置いていってくれたの」
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