賽次郎

「缶詰を優先的に集めましょうか」


「お惣菜も食べれられるだけ持って行きますわよ!」


半壊して誰もいなくなったショッピングモールに侵入した常春トコハルモモは、仄暗い店内で食料品を集めていた。


トコハルが苦々しく缶詰の料理名を見つめる。


「渋い料理ばっかり残ってる……」


「生鮮食品は全滅ですわ〜」


モモが番令漬け(不人気)のパックをいくつか抱えて戻って来る。


商品棚に残っていたのは、醤臭い野菜の郷土料理や魚の発酵食品くらいで、肉料理や菓子類、生鮮食品はとっくに持ち去られていた。


「せめて焼き鳥とか食べたかっ……」


機械のような音が近付いて来るのに気付いたトコハルは、釘バットを構えて、商品棚から食料品売り場の外を覗き見る。


「何です?」


「ここのガイドかも」


今時のモールは基本的に入り組んでいて巨大な為、案内用のドローンやアンドロイドが配置されている事が多い。

もしそうであれば何も起こらず済むが、異形であれば……。


足音も近付いてきた。


モモがトコハルに続いて槍を構える。


足音と機械のような音が近付いてくる。

ついに、音の正体は姿を現した。


「えっ……?」


人に見えるが、明らかに異形だった。


頭の上で何か白い石のようなものが輪になって浮いている。

顔にはキャラクターものの面を付けていたが、異様な場所に新しく空けられた穴から、動く目が覗いていた。


その異形が二人へ向く。


トコハルは商品棚から姿を現すと、釘バットを両手で構えて見せた。


すると、その異形がブツブツと何か言うのが聞こえた。


「ニゲル……タタカウ……ハナシカケル……ナニモシナイ……」


若い男の声だった。


その"男"は、ゆらりと片手を出した。


ケータイだ。

トコハルは、確信した。

何か起きる。


そのケータイから、カラコロと音がした。

二人へ向いていた"男"が、ゆらりとその画面を見ると、ケータイを投げ捨て、二人へ向けて走り出す。


どうやら二つめの選択肢が選ばれたらしい。


床に叩きつけられたケータイが跳ねて宙を舞った。

輪になって浮く白い石のような何かが、サイコロである事が分かった時、トコハルは目の前までやってきた"男"の頭めがけて釘バットを振り抜いた。


はずだったが、釘が刺さりながらも片手で受けられ、胸ぐらを引かれて床に叩きつけられる。

続けて降ってくる奪われた釘バットの柄をどうにか避けて、床から"男"の股間へ逆立ちのような蹴りを見舞う。


釘バットと、サイコロが地に落ちた。


すかさず釘バットを回収したトコハルは、うずくまる"男"から少し距離をとり、構える。


背後からモモが槍を向け、張り詰めた数秒間が過ぎると、床にばら撒かれたサイコロがまた浮いて"男"の頭上で輪に戻る。


立ち上がり、モモへ向けて踵を返した"男"の肩へ再び一撃を加えるトコハル。

骨がひしゃげる音がした。

青い血が落ちる。

にも関わらず"男"は食い込んだ釘を無理やり抜きながらバットを押し退け、怯むモモへ向かっていくと、槍の穂先を掴み、折った。


「ひっ……」


モモが悲鳴を漏らし、後ずさるが、切先は既に彼女の喉元を捉えていた。


「モモさ……!」


その時トコハルは、"男"に切り裂かれたモモの首から、青い血が噴き出すのを見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブルーライト・オフライン ニール @328324649ne

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ