私の弟はバケモノ

~ルーシイside~

「ねえ、オリビア母さん。ベクは4歳だよね。」

「ええそうよ。」

オリビア母さんはひきつった顔で答えてくれた。

「それじゃあ何で単独でゴブリン集落?を蹂躙しているの?」

「何ででしょうね…?」

現在、私たちの目の前には大量のゴブリンだったものが地面を覆い尽くすように転がっている。そしてその真ん中にはベクが立っており、逃げようとするゴブリンを容赦なく消し飛ばし、向かってくるゴブリンを斬り倒したり、殴り飛ばしたり、蹴り倒したりして絶命させていき、怯えて動けなくなっているゴブリンの首をまるで草を刈るような手つきで刈り取っている。蹂躙以外に言いようの無い光景が広がっていた。

「ル-シイ、ベクはただ倒しているのではなくて何か試しているみたいだよ。さっきも手に火を纏ってゴブリンを殴っては首を傾げて次は火を足に纏わせて蹴り倒してたじゃん。」

ル-ナの言う通り、ベクは色々と試しているようで、短剣に火を纏わせてみたり、氷を纏わせてゴブリンを斬っては首を傾げてみたり、ゴブリンに向かってまっすぐ走って行って、すれすれで攻撃を避けて首を斬ってみたりと近接戦を試していると思えば地面に手を当てて少し離れた地面から土杭を出してゴブリンを貫いてみたり、直径がバ-ナ-ド父さんよりも大きな火の玉を出してはそれを自分の拳大にまで小さくしてゴブリンに当ててゴブリンが消えるどころか爆風で自分が飛ばされそうになっておかしいなという顔をしてみたりと明らかに殲滅が目的ではなく何かを確認することが目的のように見えるのだ。

「奥様、失礼ですがこれがベクト-ル様の初の実戦なのですよね。とてもそのようには見えないのですが、どちらかというと歴戦の猛者だと言われた方がしっくり来ます。少なくとも初の実戦を向かえた子供は自分の背後をとられにくいようにと自分の後ろに落とし穴を作ったり、集団で突っ込んでくる相手の機動力を奪うために泥沼を作るようなことはしません。いったいどのような訓練を受ければこのようになるのでしょうか?ぜひとも新兵たちに参考にしてもらいたい戦い方です。」

遂に護衛としてついてきている騎士団の部隊長であるエリックさんに感心されてしまった。

「そうね…。」

だが、オリビア母さんは目の前の光景をいまだに理解できないようで放心してしまっているようだ。そもそもオリビア母さんはベクが戦うことにとても不安そうで実は今日の試験は春から学園に入学する私とル-ナが実戦を経験するために行われたもので、決してベクが実戦を体験するような予定はなかったらしい。というか、そんな予定はないけど実際に魔物を見ることもいい経験になるだろうということで連れてきたんだと私とル-ナにこっそりと教えてくれた。だけど、ベクがあまりにも自信満々に大丈夫だと答えるから、ついに予定と少し違うけどこれもいい経験になるよねということで折れ、とりあえずと臭いが強くなる方へと歩いていったんだと思う。だから、ゴブリンの巣と言うには語弊がある規模のものが確認できた時点でオリビア母さんは引き返そうとした。だけどベクが行くと言うとそのままゴブリン集落?に突っ込んでいき蹂躙を始めた。

うん、 今までベクはかわいい弟だと思っていたけど違う。あれは剣術や体術の訓練を受けている私たちよりも圧倒的に強い猛者であり、自分が気になったことへの追求をし続ける探求者のたまごなんだと思う。

正直に言おう、初めて討伐したゴブリンよりも、激怒したオリビア母さんよりも今のベクの方が怖い。だってさっきから膝の震えが止まらないのだもの。

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