父親とは遊べない

1歳の誕生日を迎えてから数日が経った。1歳になったからと言って、特に大きな変化があったわけではない。だが、1つだけ変わったことがあった。それは、父親が頻繁に僕の部屋を訪ねるようになったことである。訪ねてくる回数が増加したことにより、毎日顔を合わせて話したり遊ぶようになった。だけど、僕の言葉がいつもお世話してくれている人や母親に比べて理解してもらえないことが多く少しストレスだったりする。通じないことに腹を立ててぬいぐるみを父親に投げつけてみたらキャッチして手渡しで返された。その後、父親がどこからともなくやわらかいボールを持ってきた。どうやら僕がボール遊びをしたいと思ったようだ。仕方がないのでボールを投げては手渡しで返されを何度も繰り返した。投げては手渡しで返してくるのでいつ終わるのだろうかと思っていたら僕が疲れて寝るまで続いた。次回からは絶対に父親とボール遊びはしないと固く誓った。

あと、もう一つ新たに知ったことがある。それはいつもお世話してくれている女の人の名前だ。彼女の名前はエラと言うらしい。父親が部屋によく訪ねてくるようになり、訪ねてくるたびにエラと呼んでいたので覚えた。


絵本をエラに読んでもらい終わるタイミングで父親が来た。

「ベク、今日は何して遊びたい?」

今日こそは遊んでいるときに無意識で発動する魔法を意識的に発動させることのできるように練習をしようと考えていたが、父親が遊んでくれるというのなら違うことをしたい。何をしようかな?

「ベク、そんなに考え込んでどうしたの?」

「お外 ダメ?」

晴れている日はお昼寝をした後に中庭で遊ばしてもらえるが、午前中に外に出たことも父親と外に出たこともなかったので提案してみた。すると、少し考え込むそぶりをしながらも

「いいよ。」

「やったぁ~!」

うれしくなってぴょこぴょこと跳ねていたらエラに捕まった。

「危ないですよ。お外はまだ寒いのでお外に行くのならお着替えをしないといけませんね。」

「うん。」

というわけでエラに温かい服を着せられ、父親に抱っこされて中庭に出た。

「ベク、何したい?」

何をしたいかと問われても午前中の中庭に出てみたかっただけで特に何をしたいという訳でもない。そこでいつも通り中庭を走り出した。(まだまだ走れてはいないが気分的には走っている)

「ベクは走りたいんだね。よし分かった。なら父さんと競争だよ。」

というといきなり父親が走り出した。だが、僕が父親の想定よりもはるかに遅かったようであっという間に抜かれてしまった。

「トト!」

呼んでも振り返ってもくれないしなんか悔しくて絶対に追いついてやると思い頑張って追いかけたんだけどなかなか追いつくことはできない。

「ブー!」

なんとなく不満を漏らしていると後ろからものすごいスピードで母親が追い抜いて行った。

「ママ!」

「ちょっと待っててね。」

「うん?」

よく分からないけどすっごく笑顔なお母さんが走っていった。しばらくするとロープでくるくる巻きにされたお父さんが母親に引きずって来られた。

なんとなく怖くなって泣きそうになっているとエラがどこからともなく来て抱っこしてくれた。エラにあやされているうちに寝てしまったためその後父親がどうなったのかは知らない。







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