第20話 声
ランタンの明かりがじゅっと軽い音を立てて揺らめき辺りを照らし出していた。ごくりと息を飲む音は誰が発した音だったか。
「あの。搾取って?」
嫌な予感に震える声で問うてみれば賢者は視線を考えるように宙に投げてから私に視線を戻した。
「メリル君はほかに主だった力は使えないから――。そうだね。薬を強要で作らされるのは決定事項だと思う。後は……まぁ」
まぁ。と言葉を濁した。何かあるのだろうか。基本的に直球で物事を言う賢者。それが言葉を濁す。ということは不安でしか無い。
賢者は少し考えて溜息交じりに言葉を落す。伏し目がちの双眸はどこかを見ているようで何も見ていない。憂いを帯びた表情は一枚絵の様であったが今更去れに流される私たちではない。
「――本来。聖女の治癒能力は外向きにあるものではないからね……」
「?」
「ともかく。余りいいことでは無いのは確か。向こうに行けばメリル君以外は用無しとなるから――まぁ。後は分かるね?」
こういうことは平気で。どこか楽しそうに言う賢者はにっこりとロナとアシッドを見た。それはとこか課題を出しているような先生。そんな悪戯っぽい笑みだ。理解をしないのなら教える気もない。そんな表情だが、『簡単』な答えにゴクリと軽く二人は息を飲んでいた。
「俺たち、殺されるの? 」
「さぁ。ろくなことにはならないのは確かだ。けれど、生きることより死ぬことの方が楽なこともある――そう言うものだろう。人間って」
「……脅すのは良くないですよ。賢者様」
ピンと張りつめた重苦しい空気の中。それを割るように言葉を吐いたのはアシッドだった。とんと長い指が私の肩を叩く。その整った横顔はどこか知らない人の顔をしているようて何だが心が小さく粟立ったのは気のせいだろうか。
アシッドはどこか責めるような目で賢者を見ると悪戯っぽい表情をしながら肩を竦めてみせた。
「私は本当の事を言っただけだよ」
呆れた様子でアシッドは溜息一つ。まったく。と小さく吐き捨てる。
「ロナで遊ぶ癖もどうにかしてください。だから尊敬されないんです」
「え。遊ばれてんの? まじで? 今までの嘘なのかよ」
嘘とは言っていないよ。と賢者が楽しそうに言えば『えぇ』と困惑している。それを気にする様子もなく、アシッドは私を覗き込んだ。
「まぁ、それはそれとして。帰った方がいいと思うよ。俺らはまぁ、いいとして。メリルちゃん。それでいい?」
「う、うん」
アシッドたちが『いい』とは思わないのだけれど。
ともかくとしてそのことに異論は無い。何処をどう搾取するのか想像すら出来ないし言われてもよくわからない。だけれどそんなのはやはり嫌だし、怖い。
溜息一つ。
皆で安全に首都観光が出来ると思っていた……そこは後ろ髪を引かれる思いだ。ぐすぐすと言いながらせっかくの干し肉を口に含む。分かっていたことではあるが、もそもそしていて硬い。そして賢者の言う様に美味しくない。
幸せな気分にはならなかった。むしろ悲しくなる。
「じゃ、俺は馬を――」
くるりと踵をロナが返した時だった。馬の嘶きと共に怒号と悲鳴が外から湧き上がっていた。
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