第14話 バッタ100匹奮闘記
黒宮が赤城に話しかける。
「ちょっと無茶しすぎじゃないですか」
「レベル4なら3回ぐらいバッタに齧られても大丈夫よ。私たちには時間がないし、仲間が少ないの。彼が今後生き残っていくためにも、今ここで彼のレベルをあげなくては」
「そしてなにより、彼のユニークスキルの発動条件を知る必要があるんです」
赤城はバッタとにらみ合いを続ける鈴木を見つめる。
「心の準備もできないまま始まっちゃったよ」
鈴木は急いでリュックからいつもの金槌を取り出す。
その隙きを見逃さず、バッタは大きな口を開けて鈴木目掛けて飛びかかる。
鈴木は、素早く金槌を振りかぶり、バッタの頭部に猛烈な一撃を放った。
カン!
硬い!前に戦ったバッタより皮膚が硬いぞ。
金槌で殴られたバッタは地面に不時着した。驚きの表情を浮かべたが、すぐに怒りに満ちた表情に変わった。
バッタは鈴木の足元まで近づき、噛みつきを何度も繰り出す。
硬いがスピードはそこまでだな。
鈴木はタイミングをあわせてバッタの噛みつきを受け流す。
隙きを見て、バッタの前脚を掴んでひっくり返す。
「はっ」
柔らかそうな腹に金槌を振り下ろす。
ドシャっと緑色の体液が飛び散った。
「経験値10を獲得しました」
赤城がガラス越しに鈴木に話しかける。
「怪我はないわねー?」
「あ、あの、腕に擦り傷が……」
「里中さん次ー!」
赤城が鈴木の言葉を遮ってバッタ投入を指示する。
閉じられていた床が開き、今度はバッタが2匹鈴木の目の前に放たれる。
鈴木は息を整えながら2匹のバッタと対峙する。
2匹のバッタは機敏に動き、連携をとって鈴木を攻撃してきた。片方が攻撃を仕掛け、もう片方はその隙を突いて襲いかかる。鈴木は必死に回避し、金槌を振るって反撃するが、2匹のバッタは素早く身をかわして攻撃をかわした。
鈴木は次第にジリジリと追い詰められていく。
一匹が上半身目掛けて噛み付いてきた。それを鈴木は金槌を振り回しなんとか手で遮る。
「イタッ」
足首に激痛が走る。もう一匹のバッタが鈴木の左足に噛み付いたのだ。ぎりぎりと歯が食い込んでくる。
激痛に叫びながらも、噛まれていない右足でバッタを蹴り飛ばす。
足を引きずりながら、なんとか立ち上がる。後退して体制を整える。
冷や汗が一気ににじみ出てくる。
「今のでわかった。先に噛み付いてきたのをAとすると、Aはお取りになってBが攻撃役なんだ」
再びバッタが飛びかかってくる。
Aの動きを見ながらBも警戒する。
Aの攻撃を手で受けとめる。バッタAはそのまま鈴木の手の甲をかぶりと噛みつく。
「痛え!」
と大きな声を出してしまう。
その隙きをついてバッタBがまた下半身にアタックしてきた。
「待ってたよ!」
バッタAが噛み付いた状態でそのまま右手をバッタBに振り下ろす。
ドシャ!
バッタBの体に金槌とバッタAが同時に叩きつけられる。
両者のバッタの体は粉々に砕け、緑色の液体が床に散った。
「痛かったー」
バッタに噛みつかれるのは激痛だが、致命傷を負うほどではないことがわかった。
足で大丈夫なら手でも大丈夫だろうというのは賭けであったが、あえて右手を噛みつかせて相手の動きを止めることができた。
「経験値20を獲得しました」
「レベルが6にあがりました。
筋力が5あがりました。
耐久力が6あがりました。
俊敏度が5あがりました。
器用度が9あがりました。
魔力が12あがりました。」
血液が一斉に体内をめぐり始め、溜まっていた疲労が一気に解消される。レベルがあがるとダメージが回復するんだ。
部屋の外から見ていた赤城がマイク越しに話しかける。
「レベルがやっと上がりましたね。ざっと魔力は10、それ以外は5ずつ伸びたってところですね?」
「なんでわかるんですか?」
「鈴木さんもそのうちこのスキルは得られますよ」
「あの、自分のステータスって他の人と比べてどうなんですか?」
「最弱の部類ですね。レベル5なら他の人は各能力が10は伸びるものなのに」
「そうなんですね」
「まあ、ある一定を超えたら伸び方も変わってくるかもしれません。次は3匹ですね。早く倒しちゃってください」
休む日まもなく、バッタ3匹が投入される。レベルアップしたことでなんだか自信もついてきた。
バッタの連携を注視しながら鈴木は金槌を握り直す。
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