第12話 鈴木、カラーズのスカウトを受ける

「仲間って、カラーズの?」


 いきなりの誘いに困惑した鈴木が問う。


「ええ、そうです。黒宮さん、説明を」


「はい。私たちカラーズは、公にはしていませんが、あなたのように経験値を獲得できる人物を集めた組織なのです」

 

 黒宮が説明を続ける。


「新種の昆虫を倒すとごく一部の人間は経験値を獲得できることが判明しました。私たちはそのような人材を『レベルアッパー』と呼んでいます」


「レベルアッパー……。政府まで把握しているんですか?」


 鈴木の疑問に対しては赤城が説明をする。


「レベルアッパーのことまで知っているのはごく一部の政府関係者のみですね。私たちカラーズはレベルアッパーのことは隠した状態で駆除専門チームとして活動しています。いずれ公になるでしょうが、今はバレないように活動を続けながら仲間たちを探しています」


「私たちってことはあなたも?」


 鈴木は赤城に向かって疑問を口にする。


「はい。私は厚労省で勤務していました。あるとき新種昆虫の調査を千葉県でしている時、たまたま経験値獲得の声が聞こえたのです。一緒にいた同僚には声が聞こえていなかったようで、その後も経験値について調査をしましたが、周囲からは笑われるだけでした。そこで私は極秘で研究を進めながら、仲間たちを集めてきました」


 赤城は黒宮の顔を見る。


「そこで出会った仲間たちが、黒宮さんであり、他のメンバーを含めたチーム・カラーズなんです」


 赤城は力強い視線を鈴木に向けた。


「そして今日鈴木さんとお会いできました。きっと私たちが日本の命運を握っているはずです」


 スケールの大きいワードが出てきて、鈴木はゴクリとつばを飲み込むんだ。


「仲間になっていただけるなら会社には話を通して休職扱いにしてもらいます。もちろん、うちから給料はお支払いします。鈴木さんの仕事は黒宮さんと同じく駆除とスカウトです。なので死ぬリスクはありますよ。」


 捲し立てられるように一気に赤城は説明してきた。

 

「ここまででご質問は?」


「えーと、い、いや。今のところは。」

 

 最後の死ぬリスクが気になるが、うまく頭が回らず質問が出てこなかった。


「困惑するのも至極当然のことでしょう。考える猶予を3日間与えます。それまでに結論を出してください。もちろん今お話しした情報はすべて極秘事項です。決して周りに口外しないように注意くださいね。しっかりと見張っていますので」


「やらしてください」


 気づけば口から自然と言葉が出ていた。


 36歳を迎えて、自分の人生はこのまま何者にもなれずに孤独に終わっていくのだろう。


 そんな中、突然社会が崩壊し、目の前に現れた危険な道。この道を選べば、きっと過酷な状況が待っているだろう。今までの人生は未知のチャレンジは避けてきた。新しいことに挑戦してもストレスがたまるだけだ。そんな思考をずっとしていた。


 しかし、鈴木は自分の可能性に興奮していた。


 自分が手にした能力。トンボや蟻を倒したことで得た確かな手応え。そしてこれから成長できるという希望。

 何かを変えたい。なにかが変わるかもしれない。


 鈴木に迷いはなかった。


「はいります。カラーズに」


 赤城は鈴木の視線をしっかりと受け止めた。


「決断の早い男性は好きです。ようこそ私たちのチームへ」


 鈴木は赤城と固い握手をする。


 ドクンドクンと血液が循環するのがわかる。


「あなたは日本を守る救世主になってくれる気がします」


 沈みかけている夕日が鈴木の顔を照らした。


 赤城は笑顔を絶やさず続けた。


「では早速ですが、鈴木さん。あなたにはこれから100匹のバッタを倒してもらいます」


「ひゃ、100匹?」

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