第11話 鈴木、赤城と出会う

 巨大なカナブンが真っ二つに切断され、二人の両側を通り過ぎて地面に激突する。


 切断されたカナブンは紫色の体液を流して動かない。


「助かった……」


 鈴木がつぶやく。


「ありがとうございました。固有スキルをお持ちだったんですね。おかげで助かりました」


 鈴木は聞きたいことが山程あったが、力が入らない。そのまま倒れ込んでしまう。


「おっと……」


 倒れる鈴木を黒宮が支えた。


 鈴木は薄れゆく意識の中で黒宮の声を聞いた。


「無理もないです。スキルを使用したのですから」


 黒宮の胸に顔を埋めながら鈴木は気を失った。


 車の中で作業をしていた運転手が、やっと黒宮のもとに駆けつけてきた。


「大丈夫でしたか?本部と連絡がなかなかつかなくて時間がかかってしまいました」


「はい、なんとか駆除できました。とりあえず、ここを離れましょう」


 二人がかりで鈴木を運び出していった。


 

 …………


 はっと目が覚めた。


 無機質な天井が見える。温かいベッドにくるまれている。


 どうやら病室のようだ。起き上がろうとするが体が痛む。


「あ、鈴木さん起きられましたか?」


 看護師が話しかける。


「お水飲まれます?」


 手渡された水を飲む。聞きたいことが山程あるが、うまく言葉が出てこない。


「お連れ様からの言伝です」


 メモ書きを渡される。


「18時ごろに病室にいきます。その時に詳しく説明するのでそれまでは大人しくしていてください」


 時計を見ると、16時50分。どうやら5時間は気を失っていたらしい。


 看護師は一通りの検査をすませると、部屋を忙しそうに出ていった。


 ベット脇の荷物置き場には、自分の荷物があった。役に立たなかった金槌もある。それを見ると恐怖が再び蘇る。


「死ぬところだった」


 何もできなかった。結局1匹も倒せなかった。黒宮に頼ってばかりで邪魔になっていただけだ。調子に乗っていた自分を恥じる。


 しかし、最後に黒宮をサポートすることだけはできた。


「武器錬成……なぜあの時だけ使えたんだろう」


 わからない。発動条件を早く調べなくては。

 

 鈴木はベッドから立ち上がる。黒宮が来るまで1時間はある。この目でもっと情報を得たい。誰かと話したい。そして何よりお腹が空いてきた。


 仕切られていたカーテンを開ける。大部屋になっていて6名が入院している。みんなカーテンで仕切られているのでさすがに話しかけられない。


 そのまま部屋を出て、薄暗い廊下を突き進む。突き当りの階段を降りると、下のフロアから雑音が聞こえてくる。


 鈴木のいたフロアは3階で、階段でそのまま1階ロビーに出る。そこはまるで山手線の駅のような騒々しさだった。走り回る看護師、痛みで呻く患者。涙を流す遺族。


 その光景に声を失った。鈴木はこのとき今までの日常が失われたことを痛感した。


 お目当ての食堂も患者で溢れてかえり、営業はしていなかった。居心地が悪くなり、なんとなしにエントランスを出る。病院の敷地内には外を歩き回っている人が複数いるので、ここは安全だろう。


 敷地内をうろうろしていると、ちょうど黒宮と立ち会った。隣にはスーツを着た女性もいる。


「お目覚めになられたんですね。いったいここで何をされているんですか?」


 黒宮に指摘され、なぜかギクッとしてしまう。


 冷や汗をかきながら、いやあの……、と返答に困っていると、黒宮の隣にいた女性が話しかけてきた。


「鈴木さんですね?」


「は、はい」


「はじめまして、鈴木さん。黒宮の上司の赤城です」


 髪はレッドブラウンのミディアムヘア。年齢は30代半ばで、身長は160cmほどだろうか。力強い眼力で自信の強さがうかがえる。黒宮と一緒にテレビに出ていた女性だ。確かカラーズの代表者だったはずだ。


「この度の虫との遭遇大変だったでしょう。ご無事で何よりです」


 労いの言葉をかけてくる。


「はぁ、はい」


「早速ですが、鈴木さん。単刀直入にお聞きします。あなたはお一人でレベル5まであげられたんですね?」


 形式ばった会話を早々に切り上げ、赤城と名乗った女性は本題に入った。


「はい、そうですが」(なぜ俺のレベルがわかったんだ?)


「素晴らしい。そのレベルでよくぞお一人で立ち向かいましたね」


 黒宮が呆れた顔で話に入る。


「しかも、レベル15の強化種カナブンにも突っ込んできてしまいますからね」


 どうやら自分は無謀なことをしていたらしい。


「鈴木さん、本題です」


 赤城の表情が変わる。


「私たちの仲間になって一緒に昆虫を駆除しませんか?」

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