第7話 レベル上げをしよう
レベル上げしたいが、痛い思いはしたくない。
とりあえず、この蟻を一掃してみよう。
蟻の行列を目で追っていくと、一軒家の庭に繋がっていた。50cmほどのコンクリート塀で囲まれた敷地内には車2台は停められそうな庭が設けられていた。この庭の一角に、大きな蟻の巣があった。
ドーム状の砂の山ができていて、頂上に500円玉ほどの穴が空いている。そこからせわしなく蟻達が出たり入ったりを繰り返している。
巣は道路から手が届く範囲にある。この家の住人は外から見る限り不在のようだ。
この巣の中にいる蟻たちを駆除して、経験値を獲得しようではないか。
鈴木は一度自宅に帰って、昼食を食べながらパソコンで蟻の駆除方法を調べる。弁当を食べ終わると、長袖長ズボンに着替え、荷物をリュックに詰めて家を出る。
再び蟻の巣に戻ってきた。念の為、家に人がいないか確認をしよう。チャイムを鳴らす。反応はない、無人のようだ。
それでは早速駆除開始だ。まずは蟻の巣に殺虫剤のノズルを押し入れて、いっきに噴射する。数匹の蟻がパニックを起こして、巣から出てきた。襲撃してきた犯人を見つけると、急いで足元までやってきて、靴から登ってこようとする。
それらを手ではたいて、道路に落ちた蟻を持ってきていた金槌ですりつぶす。その間も殺虫剤を注ぎ続ける。
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
よしよしよし!効果はあるようだ。経験値獲得の声が延々頭の中で鳴り続ける。
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
……
蟻が巣から大量に出てきて、必死の反撃をしてくる。長い靴下で足をガードしているが、膝上までよじ登ってきて、素肌をガブリと噛んでくる。太ももに激痛が走る。
イタッ!
ズボンが血で滲む。激痛が走る箇所を手で叩いて、蟻を潰しながら、噴射ボタンを押し続ける。
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
……
3分ほど続けていると、殺虫剤の中身が残り少しになってきた。足に登ってくる蟻も増えてきて、痛みがどんどん増している。ここらへんで潮時と判断し、噴射を辞める。最後にダメ押しで、熱湯の入った水筒を開け、蟻の巣に注ぎ込む。この方法が効果的とネットで見つけたからだ。
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値2ポイントを獲得しました」
「経験値20ポイントを獲得しました」
「うん?女王蟻でも倒したか?」
「レベルが5にあがりました
筋力が4あがりました。
耐久力が5あがりました。
俊敏度が4あがりました。
器用度が8あがりました。
魔力が10あがりました。
熟練スキル<察知Lv1>を獲得しました。
熟練スキル<物理防御Lv1>を獲得しました」
「なんか身体が軽くなった気がする」
レベルが上がった瞬間、疲労感が一気に消えさり、身体の底からエネルギーが満ち溢れてきた。一晩寝た気分だ。昨晩トンボを倒したときにはパニックで気づかなかったがレベルが上がると体力が回復するのか。
よし!撤収だ!
レベルアップをきっかけに、鈴木は足の周囲に群がる蟻をひとっ飛びして、その場から立ち去る。
離れたところに移動して、ズボンにしがみつく蟻を手で払いのける。まだ20匹はついていた。しつこくかみ続ける蟻を必死に払い続けて5分。やっと蟻を払い除けられた。気づけば足の複数から血が出ていた。
「はぁ、なんかすごい達成感だ」
大きな怪我なく蟻を倒せて、レベルもあがり、体力が回復したことも相まって鈴木の気分は最高だった。
「帰ってシャワーを浴びよう」
高揚感を味わいながら、数十メートル先の自宅アパートに向かう。
帰路を進んでいると、突然直感が働いた。
新たな虫が近づいてくる!
そう感じた瞬間、鈴木が通りかかろうとしていた十字路の右側から、細長い物体が空を飛んで通り過ぎていった。自転車ほどのスピードで、地上から3メートルほどの高さで細長い物体が翅を広げて飛翔していたのだ。
鈴木は早足になって十字路を左にまがり、飛翔していた物体を確認しにいく。
飛翔物体は折りたたんでいた6本の足を広げると、きれいに地面に着地した。
鈴木は恐る恐る近づいて確認する。巨大なアメンボだ。その大きさは足をいれると、50cmにはなるだろうか。胴体の2倍はありそうな6本の足が目を引く。特に真ん中に位置している足は異様に伸びている。足の先端は毛が密集していて、不気味さを助長している。
「こいつも倒して経験値をかせぐか」
アメンボが再び地面を飛び立とうとするところを、鈴木は静かに近寄る。アメンボも気づいて急いで飛びだったが、その瞬間鈴木は長い後ろ足をつかんだ。
翅をバタつかせて抵抗するアメンボ。よく見たら顔には長い針のような口がついていた。アメンボはこの口で昆虫の体液を吸うと聞いたことがある。
翅をバタつかせても逃げられないと悟ったアメンボは、尖った口を鈴木の手首に刺そうとしてきた。
鈴木は空いている左手でその口を掴む。
「反射神経も良くなったみたいだ」
足と口を掴んだ鈴木は、そのまま左右に引っ張る。ふんっ! 巨大アメンボを引きちぎった。
「経験値10ポイントを獲得しました」
よし!経験値獲得!
鈴木は興奮で叫びだしたかった。
勝てる。
社会を恐怖に陥れている昆虫に、俺なら勝てる。
このまま経験値をためていけば、自分は無敵な存在になれるはずだ。
鈴木はニヤけてしまう。
意気揚々と帰宅をした鈴木は、シャワーをあびて身体をキレイにする。
太ももから複数の血が流れていたが、傷はふさがっているようだ。
浴室から出て来て、一呼吸つく。
今回の蟻駆除でレベルが5に上がった。昆虫を倒すことで自分は確実に強くなってる。
レベルアップ時のステータス上昇値を注意して聞いていたが、魔力だけが異常に上がっていた。自分の特徴なのだろう。
また、「物理防御Lv1」と「察知Lv1」を習得できた。アメンボが近づいてきたのがわかったのも、察知スキルのおかげなのだろう。
スキルは戦いの内容に応じて得られるのだろう。熟練スキルはステータス補助、ユニークスキルは自分だけの特殊能力って感じなのかな?
本当にゲームみたいな設定だ。ワクワクが止まらない。
ただ、まだわからないことがたくさんある。ステータスの確認方法が知りたい。
さらにもっとも重要なのが、ユニークスキル「武器錬成」の発動条件だ。どうすれば発動するのだろうか。
自身が置かれた状況の理解が進んできた鈴木は、もっと経験値を獲得したくなってきた。
少し休憩したら再び外に出よう
と、そんなことを思っていたら、ドアのチャイムが鳴った。こんな時に誰だ?不審に思いながらドアスコープを覗く。
黒髪のきれいめな若い女性が玄関前に立っていた。
どこかで見た顔だな?
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