第5話 2日目の朝
「ジリリリリ!ウーン!ウーン!ドンドンドンドン!」
次の日、鈴木は外から聞こえる異常な音で目が覚めた。火災報知器や車の警報音など緊急を伝える様々な音が入り混じっている。
カーテンを開けて外を見る。家の前の道路では家族が急いで車に荷物を積んでいた。道路の先ではブロック塀に自動車が突っ込んでいる。遠くの建物からは煙があがっている。それも複数の場所で。空にはヘリコプターが2台飛んでいる。1台は明細色のように見えるから自衛隊のだろうか。色んな所から人の悲鳴が聞こえてくる。
日常が失われたんだ。ニュースで見ていた非日常が自分の生活までをも飲み込んだ。
受け入れられない現実に鈴木はめまいがする。
キッチンにいって水を飲む。少し落ち着いた鈴木はスマホをチェックする。
ヘルメットを被った都知事が記者会見を行っていた。
「東京都全域に緊急事態宣言を発動します。今すぐ身を護る術を取るようにしてください。不要不急の外出は控えてください。避難活動は順次案内いたします」
緊急事態宣言ってなにをどうしたらいいんだ。
仕事が気になり、会社のメールもチェックするが誰からも連絡はきていない。仕事なんてしている暇はないのだろう。
ネット掲示板やSNSをチェックしたが、情報は公式発表とほとんど変わらなかった。分かったことはみんなパニックになっているということぐらいだ。
収集した情報をまとめてみる。
・東京だけでなく、関東全域で新種の昆虫が発見されている
・千葉県および東京都知事は自衛隊に災害派遣を要請
・自衛隊に非常呼集が発せられ、所属隊員全員が救援活動のために出動。しかし、昆虫の数が多くまともに対処できていない
・関東を脱出しようとする車が多く、幹線道路は大混雑。昆虫による襲撃事件も発生し、渋滞の解消は見込めていない
・海外でも新型昆虫による事件が発生している。日本から付着してきたものだと考えられ、渡航制限が出され始めている
・厚労省の駆除チーム「カラーズ」への期待が高まるが、活動の実態がわからず、次第に失望と批判の声が高くなってきている
鈴木が一番気になっている「経験値」や「レベルアップ」については、くまなくネットをチェックしてもやはり見つけることはできなかった。
一通りの情報を把握したところでスマホを閉じる。
シンと静まり返る部屋。寂しさと不安に襲われる。誰かと会話をしたいが気軽に会話できる友達もいない。
ふと思い立ち富山県に住む両親に電話をする。
「もしもし、はじめか?ニュース見たけど大丈夫か?」
還暦を超えて今は定年再雇用で働いている父親が心配そうに電話に出た。
「あぁ、なんとか大丈夫。今は東京にいるけど、頃合いを見て地方に避難するよ。富山は?」
「こっちは特になんとも。母さんは今買い出しに出かけているが、お前のこと心配しとったぞ」
お互いの無事を確かめ、また近いうちに電話をする約束をして電話を切った。
政府からの避難指示はまだ出ていないが、多くの都民が自主的に避難を始めている。しかし、鈴木には身を寄せられるような地方の友達もいない。
「実家に帰るか……」
ふと、視界の端で動く物体を認識した。目の前の壁に目を向けると、小さな蜘蛛がいた。この部屋で卵でも産んでしまったのか、去年からよく蜘蛛がでるようになってしまった。
思い立ち、蜘蛛をティッシュで潰してみる。
……
なにも起きなかった。「経験値を獲得した」という声を期待していたが、その声が聞こえることはなかった。
普通の昆虫を倒しても経験値は獲得できないんだな。
そんなことを考えているとぐぅーっとお腹がなった。
冷蔵庫にはなにもない。仕方ない、食料確保に出かけよう。
「コンビニはやっているだろうか?」
鈴木は外に出た。
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