第310話 蒼魔vs.秋斗②


「……スキルに胡座を掻いて、僕が楽をしていただと――!? 何も知らない奴が、良くも!」


「知っているッ!!」


「!?」


「お前の事なら、僕は何でも知っている!! 呉羽に追い付きたいが為に、お前は邪道を極めたんだッ!! 王道から逃げた!! 何故ならそれが楽だからだッ!!」


「く――ッ!! 説教かッ!!」


「いいや、違うね!!」


「!」


「ただの事実だァァァァァッ!!」


「――ゴォッ!?」



 神宮寺の回し蹴りが、僕の胴に炸裂する。ピンポン球の様に宙を吹き飛ぶ体。姿勢を制御しつつ、僕は奴の追撃に備えていた。


 が――



「……いない!?」


「こっちだ間抜けェェッ!!」


「!」



 空中に居た僕の背後を取る神宮寺。背中を袈裟斬りにされる寸前。僕は魔晶端末ポータルを操作して、自身の背後に巨人の槌ギガントハンマーを転送させた。



「何ッ!?」


「止まってろォォォォ――ッ!!」



 神宮寺の斬撃は槌の柄の部分に当たって阻まれる。その隙に僕は詠唱していた魔法【グラビトン・ドーム】を奴目掛けて発動する。単体・全体と分けて行使出来る超重力波だ。レベルの低い相手なら、それだけで押し潰す事の出来る魔法だが、流石に神宮寺相手では足止め程度が関の山だった。



「チッ! 洒落臭い……!」



 ……マキシマイザーの様な射撃技は【空間転移】で避けられてしまうが、範囲攻撃は別な様だね? しかし、ダメージリソースとしては弱いだろう。複数体を巻き込める範囲攻撃は、便利だけど威力が弱いのが欠点なのだ。雑魚散らしには有用だが、今欲しいのは火力なんだ!!


 スキル【オールカース】によるデバフは解けているが、その間に負ったダメージは小さくはない。さっき、【マキシマイザー】を外したのも痛かったな……あれで大分リードを許してしまった。ダメージ競争では僕の方が不利だ。



「――どうにかして、逆転を狙わなければ……そんな甘い考えを抱いているんだろう?」



 重力の黒球に縛られながら、神宮寺の奴は不敵に笑う。その口は目障りだった。



「勝敗を決めるのは『それまでにどれだけ準備をしていたか』――なんだよ。策でも鍛錬でも何でも良い。努力は決して裏切らない。勝負は時の運なんかじゃない。言ってる奴は、アホか謙遜しているかのどっちかだッ!!」


「なら僕だって、努力したァッ!!」


「数万年足らないんだよぉぉ!? 過ごして来た日数が!! 想いの丈がお前には足らない!!」


「――ッ!!」



 効果時間はまだ切れてないのに……! 神宮寺は【グラビトン・ドーム】を無理矢理外した。力任せに身体を動かし、超重力の黒球を破壊したのだ。伸びた輪ゴムが弾かれる様に、神速で駆ける神宮寺が僕の身体にぶつかって来る!!


 体当たり――ってレベルじゃないな、これ!


 弾丸の様に弾かれて、地面にぶつかる僕達。周囲には驚く相葉達の姿があった。皆の近くに落ちて来てしまったのだろう。


 早く、此処から離れないと――!!



「蒼魔――!!」


「!」



 心配そうに此方を見詰める紅羽。

 いや、正確には僕等を、か?


 ……僕等を?


 蒼魔と、呼んだのか――?



「……お前――」


「何処を見ている!! 石動蒼魔!!」


「ぐ――ッ!?」



 呆けていた横顔を、神宮寺の奴が殴り付けた。とんでもない威力だ。再び明後日の方へと吹き飛んでいく僕。痛みはあったが――それよりも、僕の脳内は別の思考に支配されていた。


 ……似ている。


 立ち姿も、戦闘時の構えも、何もかも。

 神宮寺秋斗は僕と似ている。


 ていうか、似過ぎじゃないか?

 同一人物と言われても、信じてしまう程だ。


 ――同一?



『蒼魔――!!』



 さっきの紅羽の顔が、頭の中に思い浮かぶ。


 同時に、僕は理解した。


 分かりたくもない嫌な現実を。自身の"未来"を予兆し、僕は顔を引き攣らせる――



「……同じ女を好きになった、二人の男……じゃ、ないのか? 一人の男? あぁ――でも、それなら納得が出来るぞ。辻褄が合う――ぞ……」


「消えろォォォ蒼魔ァァァッ!!」


「――」



 再び、迫って来る神宮寺。

 お前、僕なのかよ?


 僕って、最終的にこうなるの――?


 萎えるわぁ、畜生……。


 何の為に戦ってると思ってるんだよ。

 ネタバレなんかしやがってよ。

 僕にハッピーエンドは無いって言うのか?


 勝っても駄目。

 負けても駄目。


 八方塞がりじゃんか。



「……でも――」



 それって、"呉羽"も同じだったんだよなぁ?


 同じ立場なのに。

 アイツは行ってしまったよ。


 僕を残して――先に。



「……ッ!!」



 負けられるか。

 負けてなるものか。


 自分お前なんかにィ――!!



「――マキシィィィ、マイザァァァァッ!!」


「な――ッ!?」


「来い!! 神宮寺ィィ!!」


「!」


「――これが最後だァッ!! 最後のマキシマイザー……ッ!! この360秒に!! 僕は僕の全てを賭けるッ!! お前を絶ッッ対にぶっ倒してやるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」

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