第307話 100階層到達


 99階層に転移した僕達は、宣言通りゆっくりとした足取りで探索を開始した。道中の魔物達は強力だったが、八人編成エイトマンセルで挑んでいる為か、大した苦戦はしなかった。


 90〜99階層は、今までと趣が違かった。


 名付けるなら"天空エリア"とでも呼ぶべきだろうか……? 遥か高所にある塔を、上へ上へと登って行く迷宮となっている。塔は柱に支えられており、壁という壁は殆ど無い。青い空を眺めながら、僕達は先へと進んで行く。


 道中では雑談が多かったかな? 主に、思い出話がメインだった。アカデミーに入ってからの一年間を振り返り、まさかこんな事になるなんて……って、皆が口を揃えて言っていた。


 実際、僕だって同じ気持ちだ。


 ある程度、本気を出して学生生活に挑むつもりだったけれど、飽くまでソレはソロに限った話である。大人数でクランを組んで、迷宮内を攻略するなんて、考えてもみなかったね?


 相葉は最初、主人公主人公してて、ぶっちゃけちょっと気に入らなかったし。神崎はクールなイケメンキャラが鼻持ちならなかった。東雲は僕の事を露骨に避けていたし、紅羽はあんな調子だろう? 仲良く出来るとは思ってなかったよ。通天閣は敵意剥き出しのパリピバンドマンで、話もしたくなかったね。幽蘭亭も同じ……厨二病みたいな眼帯してて、ぶっちゃけ痛い。そもそも僕は気が強い女が苦手なんだ。単純に怖いだろう? だから、我道とも可能な限り近付きたくは無かったんだよ。


 それがまぁ――



「変われば、変わるものだなぁ――?」


『……』


「――あれ? 皆どうしたの?」


「いや……」


「お前の本音が聞けて、良かったよ……」


「……party people band man……?」


「……痛い厨二病やと……? こんな状況や無かったら、一発ぶん殴っとる所やなぁ……?」


「えぇ……?」



 幽蘭亭は、不本意そうに拳を鳴らしている。どうやら言葉が強かったらしい。こういう所は、僕もまだまだだね?



「言っておくけど、昔の話だからね? 今は別にそんな事は思ってないよ」


「ったり前や!?」


「パリピ……」



 影で落ち込む通天閣だが、相手している暇は無いかな? 何せ――ほら。もう目の前に100階層の転移石が見えて来てしまっていた。



「ほら、もう目的地だから切り替えよう。いつまでも失言を引き摺るのは止めようね?」


「失言って自覚はあるのね……?」


「最後の最後までこんな感じかぁ?」


「まぁ、翔真らしいと言えば、翔真らしいよ」


「褒められてるのか……貶されてるのか?」


「……どちらでも良かろう」



 話しながら、僕達は転移石のすぐ近くまで寄って来た。此れが最後の転移スポットだと言うのに、石の方は変わり映えはしないみたいだ。



「飛ぶか」


「……転移した瞬間――神宮寺に攻撃される、なんて事は無いよな?」


「無いとは思うが……警戒はしておいた方が良いだろう。事が事だからな」


「考え過ぎだと思うけど――」



 呆れた様に呟く紅羽。

 まぁ、飛んでみなきゃ分らないしな?


 僕は皆に目配せをしながら、魔晶端末ポータルを操作し、100階層へと転移した。





 ABYSSの100階層――そこは終点だった。


 塔の頂上には見覚えがある。旧・黄泉比良坂のメンバーが、生配信で昇った地点である。


 動画越しで見ていた場所。


 そこに、今は僕も立っている――



「――」



 不思議な感覚だった。


 初めて来た場所なのに、まるで何度も来た事がある様な――既視感を感じる場所だった。



「――蒼魔!!」


「……アレが、レガシオンか……?」



 紅羽の声に促され、僕は塔の頂上に浮かぶ丸い光へと視線をやった。超超高エネルギー体。世界の魔素を凝縮した白光。アダムとイブの黄金の果実――レガシオン。



「誰もいないのか……?」



 相葉が辺りを警戒するも、100階層には僕等の他には誰もいなかった。神宮寺の奴はどうしたのだろうか? 疑問に思った僕だが――その時、宙空に浮かぶレガシオンが、眩しく輝き上昇した。思わぬ動きを見せたソレに、各々は驚きを見せる。白光は徐々に収縮し、拳大の大きさになった時、レガシオンは驚くべき速度で僕の胸へと飛び込んで来た。



「!!」



 胸元から心臓へ。


 ――とぷん、と。溶け込む。


 瞬間。


 僕と翔真は――分裂した。

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