第295話 強さへの渇望②


 VRMMO『レガシオン・センス』は国内での人気を確固たるものにして行った。配信者による放送やメディアへの露出。SNSでの注目など、様々な要因が重なって、一般層からも支持を受ける形となっていた。


 ゲームの人気が加熱すると共に、ランキング上位に位置するプロゲーマーの存在も大衆に認知されて行く。特に人気があったのは鶺鴒呉羽が所属する黄泉比良坂だ。彼等は華が有ったのだ。実力もそうだが、クランのNo.1とNo.2が美男美女で構成されているというのがメディア受けしたのだろう。今では地上波のテレビに出演したり、ファッション雑誌の表紙になったりしているのだから、世の中って言うのは分からない。スターダムの道を突き進む彼等を尻目に、僕は迷宮の奥深くに籠りながら、今日も今日とて修行を行っていた。


 修行……そう、正に修行だったと思う。


 新たに追加された職業ジョブ・道化師。コイツの持つスキル【マキシマイザー】に可能性を見出した僕は、呪いの指輪カースリングを嵌めながら、魔物の集団と相対し、スキルの習熟を目指していた。


 ランキング上位になるのには、レイド戦で活躍するか、対人戦で活躍するか、どちらかを頑張らなければいけなかった。


 後者は――残念ながら僕には無理だ。

 自分でも分かる。


 才能が無いと。


 次に考えたのがレイド戦だ。単独編成ソロの僕は味方からのサポートを得られない。ポイントを盛る為にはバフ・デバフを自分で打ち、敵ボスに対して強力なダメージを叩き出さなければいけなかった。


 レガシオン・センスは役割ゲーなんだよね。


 スキル枠が少ないし、万能キャラに育てようとすると、どうしても中途半端な強さになってしまう。アタッカーはアタッカー。ヒーラーはヒーラー。デバッファーはデバッファーの育成を行わなければいけないんだ。


 けれど僕はソロだからね……役割を分担してくれる人間なんて、何処にもいない。


 必然的に、中途半端にならざるを得ない。


 僕は考えた――


 多くの時間を費やしながら――ライバル達が脚光を浴びるその影で、僕はジメジメとした迷宮内に篭りながら、ずっとずっと考えていた。


 挫けそうになった時は、ネットに上がっていた呉羽の記事を読んだりしていた。嫉妬や妬みを原動力にしようという浅はかな企みであったが、実際には感銘の方が強かったと思う。


 何というか……彼女はマジで、"ゲーマー"なんだよね? レガシオン・センスというゲームを誰よりも愛しているから、その行動も作品の魅力を引き出す事に終始しているんだ。初心者を救うのもその一環。ランカーとして模範になる様なプレイヤーになりたいと語っていた。


 それを読んだ僕は、なんてクソ真面目な女なんだと思ったよ。ゲームなんだから、もっと楽に楽しめば良いじゃないか。


 ランカー、ランカーって……そんな大したものかね? 僕には分からなかった。



「……」



 ――でも、分からないなりに、理解しようと努力はしている。彼女が目指す理想のプレイヤー。それに僕が近付けたなら、少しはこの、形容し難い胸のムカつき……溜飲も下がるかも知れないだろう?


 そうした思いで見付けたのが――自己バフを掛けながら、敵に超絶ダメージを与える事が出来るスキル【マキシマイザー】である。受けた攻撃を自身の肉体に擦過させる事で、その威力を貯蓄する事が出来るこの【マキシマイザー】は、運用自体はピーキーではあるが、単独編成ソロとの相性は抜群だと思えたんだ。


 コイツをものに出来なければ、僕は一生モブのままだ。ライバル視している鶺鴒呉羽と交わる事なんて一生無い。存在すら認知されず、ただの情けない敗北者になるだろう。


 ――それは、絶対に嫌だった。


 僕がアイツの事を格好良いと思った様に。

 アイツにも僕の事を格好良いと思わせたい。


 原動力は、それだけだ。


 それだけで、十分だった。



 ――やがて時が経ち、メキメキと力を付け、世界のトップクランに成長した黄泉比良坂。


 僕の方は、相変わらずの日陰者だ。


 日陰者なりに。


 巷では、こう呼ばれている。


 迷宮の奥地に潜む、物言わぬ道化師。

 PKK好きなマキシ厨患者。

 レイド戦のジャイアント・キリング。

 公式公認の野良NPC。


 レガシオンの"亡霊"と――


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