第293話 呉羽との出会い②
腰まで伸びた紅い髪。軽装の騎士鎧に身を包んだ彼女は、堂々とした佇まいでガラの悪い四人組に相対していた。
一瞬、咎められた事にビクつく四人だが、相手が一人だと気付くと、すぐに元の調子を取り戻す。――否、相手が美しい女性だと知って、逆に下卑た笑みを浮かべている。何処まで行っても救いが無い。そんな連中だと思った。
「何ですかー? 別に遊んでるだけですよー?」
「その人、怖がってるみたいだけど……?」
「はぁー? 気の所為、気の所為」
「ていうか、関係なく無い? お姉さんこそ何なの? 自治厨? 遊びに来たのー?」
「……その人は此方で保護します」
「いやいやいや!?」
「何勝手してんのー!?」
「ボイチャ聞いてるー? てかもう良いでしょコイツ、やっちゃおうぜ、面倒くせぇー!」
「――」
四人組の一人が、来訪した女性に手を上げる。――が、その攻撃は空振りに終わった。
「ダッサー! 避けられてるじゃん!」
「はぁ!? うるせぇッ!!」
囃し立てる声に振り返る男。尚も連中はふざけた態度を決め込んでいる。
「……敵対する気ですか?」
紅い髪の女性が、男達に問い掛ける。
それは警告の様だった。
「そうだよー? 運が悪かったねー、アンタ」
「敵対だって!? テキタイ、テキタイ!!」
「はしゃぐなよ、バーカ」
「……」
「あれあれー? 黙り込んじゃったよー?」
「ビビってんじゃね?」
「お前、絶対ぇ逃がさねぇからな!? マジ、バチボコにボコって泣かしてやる!!」
「ちょっと待ってー、動画撮る動画撮る!」
「早く準備しろよボケ!」
ジリジリと女に近寄りながら、声で威圧していく男達。何だこれ? コイツら、疑似レイプでもしたいのか? 犯罪者予備軍め……失望した。僕はこのゲームに失望した。
こんなガラの悪い連中が蔓延るゲームなんて、遊んでられるか!! ユーザー数が増えたとしても、質が悪ければ客は離れるんだよ!?
……もういいや。
……所詮はゲームだし。
多少は熱くなっていた所もあるかも知れないけれど、他に替えが無い訳じゃないしな? これが終わったら、暫くはログインするのは控えよう。何だか、急に馬鹿馬鹿しく思えてきちゃったよ。――熱し易く、冷めやすい。
そうだよな?
僕は昔からそういう男だったんだ。
何も変わらない。
変わる筈がない。
そう、思っていた筈なのに――
「――"屑"ね」
『……え?』
「――屑と呼んだの。言葉の意味、分かる?」
『――』
思い掛けなかった女の挑発に、僕を含め、四人組の男達が唖然となってしまう。
「仮に貴方達が――遊び方の分からない初心者だったとしたら、導くのはランカーの役目だと思っていたわ。けれど違う……貴方達は『レガシオン・センス』のプレイヤーでもなければ、ゲーマーですらない、ただの屑……視界に入るのも許せない……!」
女は、淡々と語りながら腰に差した剣を引き抜いた。清楚で、美しい顔とは裏腹に、口から飛び出る言葉は、その全てに棘がある。
「――レガシオン・センスのランカーとして! このゲームを愛するプレイヤーとして! 貴方達の存在は看過出来ないわ!! 完膚無きまでに屠ってやる……ッ!!」
――気が付けば、僕は彼女の姿に釘付けになってしまっていた。威勢の良い啖呵と共に、煌めく白刃。相手のレベルが低いとは言え、その強さは圧倒的だった。単純に彼女は上手いのだ。卓越したキャラコンに、相手の動きを全て見切っているかの様な先読みした動きは見てて軽い感動を覚えてしまう。
ランカーって言ったよな……?
もしかして、コイツがそうなのか……?
ランキング第一位、鶺鴒呉羽。
僕が一方的にライバル視をしていたプレイヤー。妬み、嫉妬を向けていた女が、目の前で剣の舞を踊っている――
「ひ、ひぃぃぃ!? 何なんだよ、コイツ!? 何なんだよォォォォ――ッ!?」
最後の一人となった男が、絶叫しながら剣を振り被る。しかし、彼女と比べて、その速度は全てが遅い。喉・肩・腰・股・足首と――何かが通り過ぎたと思った瞬間、男の身体は一瞬にしてバラバラに解体されてしまう。幾らバーチャル・リアリティでも、トラウマになるのが必至なやられ方である。恐らく、連中はもう二度と、このゲームにログイン出来ないだろう。それくらいの精神的ダメージは与えたと思う。
「……少し、やり過ぎましたかね?」
倒れた僕に振り返りながら、彼女は晴れやかな笑みを浮かべて見せる。その笑顔が、余りにも美しかったから――僕は――
「――ッ」
「――あ!」
僕は、その場から逃げ出したんだ。呼び止める彼女の声も無視しながら、全力で!!
今日は色んな事が起き過ぎた。僕の感情はぐちゃぐちゃだ。彼女が鶺鴒呉羽である事は疑いようのない事実だと思う。一方的にライバル視していた女に、僕は情けない姿を見られて助けられたんだ。到底許せる話ではない。
感謝が、恥辱を上回った。
胸の高鳴る鼓動は、きっと自身に対する怒りからだろう。『レガシオン・センス』を辞める? 冗談じゃない!! こんな屈辱を受けて、逃げ出したままでいられるかよッ!?
「畜生、畜生……! あれが、鶺鴒呉羽か!? 何だよ、滅茶苦茶格好良いじゃないか……!?」
ムカつくムカつくムカつく――!!
ムカついて……テンションが上がるゥ!!
何だこの感情!?
知らないぞ……動き回りたくて堪らない!!
覚えてる、あの前口上。
『レガシオン・センスのランカーとして――』
――か。
なら、僕は――
「……プレイヤーとして、アイツに勝つッ!」
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