第291話 世界の意志②


「次に聞きたいのは、君の事だ」



 御剣直斗――いや、その皮を被った偽物。世界の意志とやらが、僕を見詰めている。何かを試す様に。見定める様に。僕を見ていた。



「此処までの情報で、君と神宮寺秋斗の立ち位置が酷似している事は分かっただろう?」


「まぁ、ね……」


「僕達が問題としているのは、君の覚悟さ」


「覚悟?」


「神宮寺秋斗を打ち倒し、君が元の世界へと帰還したとしよう。生命の息吹が感じられない崩壊した世界で、悠久の時を過ごす君が、孤独に耐えきれなくなり世界移動を行ったとしよう」


「……」


「その時点で、君は"神宮寺秋斗"になる」


「――!」


「救う側から壊す側へ。そんな事態は僕等も避けたい……僕達が問いたいのは君の覚悟だ。虚数へと堕ち、無限の時間を孤独に過ごす事が出来るのか? 刑期は君の精神が擦り切れるまでだ。正気を保つ程に苦しみは増し、やがて君は親と姉妹。仲間の顔や自身の名前すらも忘れてしまうだろう。そんな地獄に、人の身が耐えられるのか? 僕はそれを聞きに来た……」


「……」


「さぁ――答えてくれ、石動蒼魔」



 ……答えてくれと言われてもな?


 大体、今までの話も僕は良く分かっていないんだ。小難しい事を並べていたけれど、要するにコイツは僕が信用出来ないんだろう? かと言って、力付くで排除するのも難しいから、代替案として「お前って、どっち側なの?」と、わざわざ聞きに来たという訳だ。


 悠久の時を孤独に過ごせる覚悟か――



「――そんなの、やってみなければ分からないだろう!? 覚悟とか難しく言うな!! 僕は頭が悪いんだからね!? 無限とか悠久とか厨二ワードを並べられても具体的に想像出来ないんだよっ!? それに『神宮寺秋斗になる』とか言われてもさ、僕とアイツは違う人間だし、同じ様な事態になるとは限らないだろう!? 世界の意志って言ったっけ――? アンタはさ、前提からして間違ってるんだよ!?」


「間違っている――?」


「そもそも、本当に世界は滅んだのか!? 荒れ果てた惨状は目にしたけどさぁ、全部が滅びているなんて、僕は信じちゃいないんだよ!!」


「それはまた……希望的観測だね? 現実逃避とも言えるかも知れない」


「うるさいなッ!? どっちでも良いんだよ!? 確実に言える事はただ一つだッ!!」



 息を吸い込み、宣言してやる。



「――僕は絶対に諦めない!!」


「……」


「孤独が何だ!! 一人が何だ!! 何年、何千年、何万年掛ろうとも、僕は生きて生きて生き続ける!! 世界に再び生命が根付き、また皆と再会出来るまで――僕は皆を忘れない!!」


「再会……しかし、そんな事は……」


「――輪廻転生って知ってるか? 生命っていうのは死んでもまた生まれ変われるんだよ!! どれだけの時間が掛かるのかは分からないが、可能性があるなら、諦めないッ!!」


 小数点以下の可能性でも良い。神宮寺を倒した時には、僕も"超越者"になっている筈なんだ。


 不老不死。

 時間という概念から外れた存在。


 なら――待てる。


 再び命が廻るのを、僕は待つさ。


 待ち続ける――



「……君の覚悟は、確認した」


「!」


「では、見届けよう。稀人まれびとよ。その信念が折れぬ事を祈っている――」



 聞くと、眩い光が辺りを包み込んだ。光が収まった頃、僕は一人で別の迷宮に立っていた。


 強制転移という奴か……?


 魔晶端末ポータルを確認すると、現在位置は81階らしい。どうやら、無事に守護者戦を終えられたらしいね?



「あっ!! 経験値……ッ!?」



 僕が叫んだ、その瞬間である。


 自身の魔晶端末ポータルから、レベルアップを知らせる通知音が鳴り響いた。どうやら、経験値は問題なく獲得出来たらしい。戦闘と呼べる行為はしていないのだが――まぁ、貰えるものなら貰っておこう。



「LV.80かー……」



 ……この世界の基準で考えると、もはや化物だね? しかし、これくらい強くならないと、後で待つ連中には敵わないと思う。


 神宮寺の奴は当然だが――



「次の相手は、呉羽だからな……」



 鶺鴒呉羽。

 世界ランキング第2位の女。


 そして僕の――



「……」



 僕が、初めて好きになった異性である。


 感情は抜きにしても強敵だ。

 下手をすれば、神宮寺よりも強いかも?


 勝てるかどうかは、運次第――



「それでも、やらなくちゃな――?」



 アイツが尊敬する、"石動蒼魔"でいる為にも。


 僕は進み続けなきゃいけないんだ。



「レガシオン・プレイヤーとして――」



 ――ランカーとして。

 ――常に、正しい選択をしましょう?



「……そうだよな? 呉羽……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る