第288話 相葉総司 好感度MAX
――SIDE:相葉総司――
今日も今日とて、俺は学校に登校する。学生の本分は勉強とも言うし、プロ探索者になったからと言って、それまでの環境をガラリと変える事はしなかった。これは、リーダーである翔真の方針だ。ABYSS探索で本当に遅れが出てしまった時は別だけど、基本的には今まで通りの生活を心掛けよう! ……というのが、アイツの言葉だった筈なんだけどなぁ……?
「今日も翔真はいない――か」
教室に入るなり、空席となった席を見て、俺は嘆息した。最近はずっとこうだ。70階層を攻略してからというもの。翔真はそれまでの遅れを取り戻すかの様に、学校を休んではソロ探索に没頭していた。俺達が翔真抜きで階層を上げてしまったのが切っ掛けだが、もう奴の攻略階層は俺達のものより上がっている。ソロで探索をする必要は無い筈なのに、翔真は断固としてソロ探索を強行していた。
……やっぱり、あの70階層が原因だよな?
聞けば強力な守護者だったらしい。70階層を攻略した直後の翔真は、普段通りの様に振る舞っていたが、やはり何処かアイツらしくは無かったのかも知れない。
守護者――この世界に取り込まれた翔真の知人達。彼等を倒すのは辛く苦しい事だと思う。
アイツは何も言わないが……このまま誰とも話さずにソロでABYSSに潜っていたら、何れ翔真は壊れてしまうんじゃないか?
俺は――危機感を抱いていた。
「……む。今朝は早いな?」
「歩……」
「教室の入り口で立ち止まって、どうした? 中には入らないのか?」
俺は、親友である神崎歩の顔をまじまじと見た。かつて俺が復讐の闇に囚われそうになった時、こいつが引き摺り上げてくれたんだよな?
自分だって、大変な時期だっただろうに。
「……歩。――歩ッ!!」
「な! なんだ!? いきなり人の名前を連呼して……!? どうかしたのか、総司……?」
「頼む、歩……もうお前しかいないんだ!」
「……は?」
「翔真を、元気付けてやって欲しい……!」
「!」
「アイツはもう限界なんだ……! だから――」
「――わ、分かった! 分かったから少し落ち着け!! 生徒が注目しているぞッ!?」
「っと、すまない……」
思わず熱くなってしまった……。
だが、それくらいアイツは俺にとって大事な存在なんだ。――親友であり、目標であり、恩人でもある。初めて会った時は、こんな付き合いになるとは思わなかったよ。
アイツに、潰れて欲しくない。
それには、俺の元気付けじゃ足りないんだ。
紅羽は……下手すれば逆効果だし。
歌音は……逆に翔真を消耗させそう。
通天閣は……うるさくて無理だな。
幽蘭亭は……癒しが足りない。
我道先輩は……論外かな……?
やっぱり、黄泉比良坂の中で限定すれば、神崎以外の人選は考えられない!!
「後は、元気付ける方法だよな……?」
「総司……? 何だか、怖いんだが……?」
総司が何かを言った様な気がするが、今は気にしないでおこう。大事なのは、これからの作戦だ。どうやって翔真を喜ばせてやるか――?
「……天樹院に、聞いてみるか……?」
単なる思い付きだったのだが、天樹院に頼るという方法は、割と正解な気がして来た。
「――全員、着席。これよりHRを開始します」
「おっと!」
立ち話をしていた俺達は、影山先生の登場により、慌てて席に着き始める。
これで方針は決まったな? 授業が終わり次第、生徒会室に向かうとしよう。
◆
「彼を元気付ける、か――」
四限の授業が終わり、昼休憩になったのを見計らって、俺は天樹院の居る生徒会室へとやって来ていた。通されたのは来賓用の小部屋だ。俺達はソファーに座りながら、テーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルの上には紅茶が二つ置かれている。天樹院が下級生に淹れさせたものだが、味は良い。きっと高い茶葉を使っているのだろう。盛られた焼き菓子も美味そうだった。――が、今日は遊びに来た訳ではない。襟を正しながら、俺は天樹院に相対する。
「何なら、僕が行っても良いけど――?」
「それは駄目だ!」
「……何故?」
「お前の立場は特殊だ。翔真も、今は全国民が注目している黄泉比良坂のリーダー。下手な事をして、良からぬ噂を立てられるのは不味いだろう。……接触は控えた方が良い」
「……チッ」
……今、舌打ちされた様な気がしたが――きっと幻聴だろう。俺は構わず話を続けた。
「お前が出向くという方法を取らずに、翔真を元気付けたいんだ! 何か知恵を貸して欲しい」
「動くのは神崎歩だろ? 彼女に任せておけば、大体の事は何とかしてくれると思うけど?」
「それは、そうなんだが――」
「……何?」
「……いや、思ったより歩に対しての評価が高くて驚いている。お前はもっと、他人に辛辣だったと記憶していたからな……?」
「それは、君に対してだけじゃない……?」
「え?」
「だって君――昔っから、使えなかったし。僕の側周りをしている癖に、御使いだって満足に出来なかったじゃない?」
「そ、そうだっけか――?」
「そうだよ。もしかして、覚えてないの?」
「いや、まぁ……うーん……」
「呆れた従者だねぇ……?」
「うぅ」
……何だか、嫌な流れになって来たなぁ? 昔の事を言われても、あの頃はまだ小さかったんだし、色々と至らない所があったとしても、仕方がないだろう? それに、天樹院だって年上の癖に俺の事を徹底して無視したりと、大人気無い事を沢山やっていたんだ。人の事を言えた義理じゃないと思う。……多分。
でもまぁ、何というか――
「……嬉しそうだねぇ? マゾなのかな?」
「違うって! ただ、そうだな――こうやってお前と普通に会話が出来る様になったのも、翔真のおかげなんだよなって、思っただけだ。俺達ってさ、普通に仲違いしたまま終わる未来もあったと思うんだよ。それをアイツが繋いでくれた様な気がしてならないんだ」
「……そうだね。そうかも知れないね?」
「だからさ、アイツには出来る限りの事をしてやりたいんだ。恩返しって意味もあるけれど、やっぱ親友として――さ?」
言ってて少し、照れ臭くなる。
こういうの、言葉にするのは苦手だ。
「――それじゃあ、彼を元気付ける作戦を考えようか? 当然、投げっぱなしじゃなく、君も案を出してくれるんだろう?」
「あ、あぁ! バッチリ、任せてくれ!!」
「ふふ……なら、こういうのはどうかな?」
俺と天樹院は、二人で意見を出し合いながら翔真を元気付ける為の作戦を考えていく。それは、いつか夢見た穏やかな時間だ。この瞬間をくれたアイツの為にも、飛びっきりのものを用意してやらなきゃな――?
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