第284話 武者小路美華子 好感度MAX


 ――SIDE:武者小路美華子――



『現地のリポーターさん、お願いします』



 神宮寺さんの一言により、放送画面が切り変わりますわ。いよいよ、翔真の――黄泉比良坂の勇姿がテレビで観れるんですわね!?


 私は自室のテレビに齧り付きながら、今か今かとその時を待っていましたわ。当然、録画もしています。PTメンバーである宇津巳さんからリーク情報を貰っていた私は、この日の為に朝の4時に起床して精神統一を図っていました。


 現在時刻は朝の7時30分。


 情報番組『おまたん』と言えば国民的人気を誇る朝番組です。そこの番組内で紹介されるなど、これほどの名誉はありませんわ……!!



「来ましたわ――!!」



 乱れた映像が画面に写ります。何ですの、この視点は? カメラ役である宇津巳さんが駆けているのでしょうか? ガクガクと上下に揺れ、酔いそうな視点から始まったABYSS内の映像。白く静謐な迷宮内に現れたのは、見た事も無い種類のアンデッドの大群でしたわ。


 此処が、60階層を超えた先――?


 世界初公開の映像に、ワイプで映った司会の男性のテンションが上がります。



『はぁ、はぁ……!! 此方、現地リポーターを務めさせて頂きます! アカデミー1年生の宇津巳早希です! 現在私達は62階層を攻略中!! アンデッドの大群に襲われてまぁぁすっ!!』


『大丈夫ですか、宇津巳さん!?』


『な、何とかぁぁ!!』



 スタジオ内のコメントを拾いつつ、宇津巳さんは迫り来るゾンビ犬から逃げています。追い付かれると思った瞬間――頭上より飛んで来た女生徒の一撃により、ゾンビ犬は四散します。拳で地面にクレーターを作る女……我道竜子は、振り返らずに敵の大群へと突っ込んで行きます。



『え、えーっと……か、彼女は……?』


『2年生の我道竜子先輩です!! 今は黄泉比良坂のメインアタッカーを務めています!!』


『あの、天武祭の……!? 黄泉比良坂と言うのが、彼等のクランの名称なんですね!?』


『はい! そうです!! ――キャっ!?』



 言ってる側から、今度は首無しの馬に囲まれてしまいます。流石に、60階層の魔物は強そうですわね……? 画面越しからも、その威圧感は伝わって来ます。焦る宇津巳さんですが、今度は雨の様な雷撃が彼女を救いました。



『――Let's Party‼︎ YEAAAAAAAA‼︎』


『うぉぉ、凄い!! 彼は一体……!?』


『1年C組の通天閣歳三君です! 彼は雷属性を得意とする魔法アタッカーですね。私生活ではバンド活動も行なっており、Gehennaというインディーズバンドのボーカルを務めています』


『はぁ〜〜、多彩なんですね〜〜?』


『ちなみに、あちらで戦っているのが――』



 逃げ回りながらクランのメンバーを次々と紹介していく宇津巳さん。良くもまぁ、こんなにも魅力的な人材を揃えましたこと?


 しかし、そんな事はどうでも良い。



「何をしてますの、宇津巳さん!! もっと翔真を!! 翔真を映して下さいましっ!!」



 辛抱堪らず、バンバンとテレビを叩く私。


 翔真は器用にもカメラの画角から自身を外している様でしたわ。宇津巳さんがカメラを向けてもすぐに何処かへと移動してしまいます。


 何という早業……!!


 そうこうしている内に放送時間が押して来ましたわ。今は相葉総司と東雲さんにインタビューをしているみたいですね? アンデッドの数が減って、余裕が出来たのでしょう。



『クラン・黄泉比良坂の活動の目標を聞きたいんだけれど、良いかなぁ?』


『えーっと……』



 相葉総司はチラリと画面外へと視線をやります。恐らく、翔真に確認を取ったのでしょう。



『俺達の目標はABYSS100階層の攻略です』


『100階層!? それはまた……』


『現実感はありませんよね? でも、このクランなら行けると思うんです。勿論、俺も精一杯頑張りますし、皆だって同じ気持ちです』


『代表の翔真君が強いから、大丈夫でーす!』


『ちょっ――!?』


『……代表? そういえば、彼等のリーダーは何処にいるんでしょう?』


『あぁ――っと、それは……』



 宇津巳さんの、気不味い声が響きます。庇い切れないと判断した彼女は、カメラを後方へと向かわせます。すると――



『……ども、僕が代表の石瑠翔真です……』


「キマシタワ――ッ!!」



 翔真の凛々しいお顔が全国にッ!! 私は思わず、胸が一杯になってしまいました。



『えーっと……君が、代表……?』


『まぁ、一応……』


『……うーん、そっかぁ……人は見た目には寄らないんだねぇ!?』


『ははは……』



 司会の声に、苦笑する翔真。

 何という失礼態度っ!?


 ――私は内心で憤ります!!


 あの程度の輩を司会に添えるとは……『おまたん』も堕ちたものですわね!? 次回からは裏番組を視聴させて頂きますわッ!!



『……ふう、これで全部だな……』


『……うんっ!?』



 抜いた刀を納刀し、神崎歩が近付きます。



『凄いイケメンだねぇー、彼!? ちょっと宇津巳さん! 銀髪の彼に寄って寄って!!』


『え? あ、はい……』


『ちょっとインタビュー良いかなぁ!?』


『……まぁ、多少なら……』



 ……どうやら、これ以上この番組を観る必要は無いみたいですわね? 私は映像の中の翔真の顔を思い出しながら、朝の登校の準備を致します。見たいものは見れたので、一応は満足と言った所でしょうか?



「今日の放送……教室で持ちきりになっているかも知れませんね?」



 楽しみにしつつ、私は家を出るのでした。

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