第283話 放送開始
――SIDE:神宮寺秋斗――
「はーい、チェックOKです!! いつでも本番回せますよー!!」
「CM明けると共に放送ねー!」
「神宮寺さん、準備は?」
「常に出来ています」
「流石……」
「5秒前!! 4、3、2、1……!」
カメラの前で、僕は作り笑顔を浮かべた。撮っているのは、朝の情報番組である『今日はお前が探索者(通称・おまたん)』内のスタジオだ。
どれだけ偉くなったとしても、こう言った放送に出るのはゲロを吐く程に苦手だった。作り笑いだけは上手くなったが、一般大衆に見られている気分は慣れる事など出来なかった。
それでも僕が此処に立っている理由は、自分の責務を果たす為だろう。
僕はレガシオン・センスが大好きだ。自分自身の記憶の断片によって形作られたゲーム。その設定に酷似したこの並行世界も、好きであるのは当然だ。何れ消えて無くなってしまうこの世界だが、滅びの瞬間までは、僕も"キャラクター"として、この世界に貢献しながら生きて行きたいと思っている。
この放送も、その一環だ。
「昨今、巷で騒がれていますABYSSに対する健康被害。国民からは特権階級化している探索者の見直しが叫ばれていますが――どう思いますか、神宮寺さん?」
「まずはABYSSに対する健康被害ですね。長年秘匿されて来ました魔種混交という存在の暴露により、ABYSSから排出される"魔素"は乳幼児に悪影響を及ぼすという結果が出ています」
「それはつまり、魔物化――ですか?」
「えぇ。大人の場合は抵抗力がありますから、軽い魔素を浴びた程度では影響は出ません。しかし、胎児……もしくは乳幼児ともなると影響が出てくる子もいるでしょう」
「実際、どれくらいがラインなのでしょう?」
「と、言いますと?」
「具体的に魔物化する年齢と言いますか――」
「……それは、一概には言えませんね? 人間の抵抗力というのは、その人自身によって変わってくるものですから。……敢えて答えるとするならば、6歳以下の子供を育てる時は、ABYSSから10km圏外に出た方が好ましいでしょう。一番安全なのは東京から離れる事ですが、仕事の関係とかもありますでしょうし、中々上手くは行きませんよね?」
「成程……またもや、東京の地価が下がりそうな一言ですね?」
司会の男が笑いを誘う。
都内にマイホームを買ったばかりのディレクターが顔を引き攣らせているが、知らん顔だ。
「今、土地や物件が値上がっているのは埼玉ですよね? 他にも千葉や茨城……東京以外の関東圏が人気なのかな?」
「在宅ワークという手もありますが、対応している企業は未だ少ないですからねー」
自分で振っておいて何だが、話が段々と脱線して来たな……? 此れも生放送の醍醐味か。
「続きましては、特権階級化した探索者の見直し……という話ですが――?」
「弱り目の時期に、こう言った話が出て来るのは想定内ですね」
「と、言いますと?」
「僕はこれ、実際に叫んでいるのは少数派だと思っているんですよ。以前から非探索者が、探索者を妬む声というのは聞こえていました。妬みや嫉妬から来る感情です。探索者は他の業種に比べて稼いでいるのは事実です。しかし、それは自身の身の危険を担保してお金を稼ぐから、それほどの財を築けるのです。決して楽をして今の席に座っている訳ではありません」
「……探索者と言いますと、トップクランの"マイティーズ"や"ルミナス"が解散してしまいましたね? やはり、昨今の時勢を受けて活動が困難になったという事でしょうか?」
「各クランの解散理由は、発表以外のものは無いでしょう。シドを欠いたマイティーズではその地位を維持出来ませんし、御子神輝夜は例の事件の生き残りです。力不足を痛感したというコメントは、事実だと僕は思いますね」
「力不足、ですか……あの実力者揃いの"ルミナス"でも、そんなに……」
「厳しいんですよ。探索者という職業は。引き際を見誤らなかったという点では、両者のクランは評価出来ると思います」
「しかし……トップクランが二つも辞めて……神宮寺さんの八尾比丘尼も、今は活動を停止中なんですよね!? これから更に探索者の業界は冷え込んで来るのかも知れませんね?」
――来たか!
これは振りだ。予め打ち合わせをしていた、黄泉比良坂の紹介の振りである。
「――それが、案外そうでもないんですよ」
「と、言いますと?」
キョトンとした顔で、僕に訊ねてくる司会の男。コイツも中々の演技派だな? 僕が視聴者側だったなら騙されてたかも知れないね。
「アカデミー占拠事件の折に、陰で尽力してくれていた生徒達が居ます。彼等は僕の推薦で、先月探索者クランを結成しました」
「おぉ!! ……どんなクランなんですか?」
「凄いですよ? 僕の支援があったとは言え、つい先日に60階層を攻略してるんですからね?」
「え!? ろろろ、60!? 60ですか!? ABYSSの階層……ろくじゅうっ!? 前人未到の!?」
「……はい」
……少し、演技が臭くなって来たな……?
余り褒めるんじゃなかった……。
「これ、この番組で初出しの情報ですか!?」
「まぁ、そうなりますね……」
「凄い……凄い事ですよコレは……!!」
もう良いから、早く次に行ってくれ。
僕は内心で願い始める。
「その、彼等は学生なんですよね!? 学生でプロの探索者顔負けって……ほへぇぇ!!」
「……実は、中継も繋がっているんですよ」
「え!? 見たい見たいっ!!」
「現地のリポーターさん、お願いします」
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