第281話 事件明けの登校日
9月1日金曜日。
朝の支度を終えて、家を出る。
今日は久々の登校日だ。
色々とゴタゴタが落ち着いて、アカデミー側も一般授業を行えるまで回復したという事だ。
しかし――怠い。
今までがずっと私服だった事もあってか、制服の襟元が苦しい様に感じてしまう。長時間、教室の中に拘束されるのも面倒だ。ABYSS探索の進行速度も徐々に遅れざるを得ないだろう。
まぁ、最悪12月に間に合えば良いか。
9月中に70階層。
10月中に80階層。
11月中に90階層。
12月中に100階層と。
一月に10階層攻略出来れば、何とかなる。
「……お、おはよう」
「ん……?」
家を出てから数分経過した所で、紅羽の奴と鉢合った。珍しい事もあるもんだ。
「あれ、お前一人……?」
言外に「相葉達はどうしたのかと」問い掛ける僕。いつもは一緒に登校しているじゃないか。今日に限って、どうしたのだろう?
「総司達とは、後で合流するんじゃない?」
「なんだそのフワフワした感じ……?」
「別に良いでしょ!? 大体、私と一番家が近いのはアンタなんだから、最初に合流したとしてもおかしくはないじゃない!!」
「まぁ、それはそうなんだが……でも、普段は一緒に登校してなかっただろ? お前の方が不自然なくらいに先に学校に着いてたし……」
「そ、それは――だって……」
「――てっきり僕は、石瑠翔真を避けてるんだと思ってたんだけど?」
「……ぅ」
「お前の中で、どういう心境の変化があったんだろうって、不思議に思ってるんだよ。まさか、僕に惚れたとかは言わないよな?」
「だ、誰がアンタなんかに!?」
「想像通りの返答をありがとう」
「あ〜〜ッ!! もう!! 何だってアンタはそう捻くれてるのよ!? 翔真じゃないけど、翔真みたい!! 私が一緒に登校したいって言っても良いじゃない!! 何でそう意地悪するのよ!?」
「意地悪してる訳じゃあないんだがな……?」
「じゃあ何よ!?」
「こういう性格だし」
「……」
「あー、面倒臭い。話してるのも時間の無駄だ。早く学校に行こうぜ?」
「……なんなのよ、全く。本当、呉羽さんの気持ちが分からないわ……」
「……? 何か言ったかー?」
「別に何も!!」
プリプリと怒って、先を歩き出す紅羽。何だかなぁ……? 本当、良く分からない女だよ。
◆
途中、相葉達と合流して。
更に、通天閣や幽蘭亭を道中に加え。
止めに、我道と共に校舎内を歩いていく。
……当然、周りからは注目の的だ。
廊下を歩いているだけなのに、生徒の殆どが道を開けていく。擦れ違う度に
「そんじゃま、後でな?」
階段で我道と別れる。
3年生の教室は三階だもんな?
「ほんなら、ウチ等も教室に戻るわ」
「See you Everyone」
幽蘭亭と通天閣が、それぞれB組とC組の教室に入って行く。D組は廊下の一番奥だ。僕等はそのまま突き進み、D組の扉に手を掛けた。
『――60階層到達、おめでとう!!』
「……は?」
教室に入った瞬間、僕等はクラスメイト全員にクラッカーを鳴らされてしまう。思わず目が点になる僕達。なんだ、この祝杯ムードは? ていうか、何で60階層の事を皆が知っているんだ? 僕は思わず、背後にいる相葉達に目を向けてしまうが、彼等も困惑している様子だった。前に出て、意味深に笑う宇津巳早希。
コイツまさか――やったのか?
「――ま、報道部は伊達じゃないってね!」
「さ、早希ぃぃ……」
「早いか遅いかの違いじゃない。そんなに目くじらを立てないでよ」
「……それはそうかも知れんが」
「何事も、心の準備はあるからね……?」
微妙そうに頷く、神崎と相葉。しかし、宇津巳だけに拘わっていられる場面では無いか?
教室の連中は、僕らの口から飛び出る武勇伝を、手ぐすね引いて待っていた。此れは逃げられないな……? 僕は諦めた心待ちで近くに居た紅羽へと事の説明を促した。世界が崩壊するとか、そう言った物騒な話は伏せてある。彼等に聞かせたのは僕等が神宮寺秋斗に推薦されて探索者クランとして活躍しているという事。既に60階層まで攻略しているという事実だけだ。
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