第272話 守護者・氷雪姫モルガン
8月8日月曜日。
第40階層。
守護者・氷雪姫モルガン戦を終え――
「――とまぁ、そんな感じなんだよね?」
『……アンタさぁ、それで良いわけ?』
「え?」
『いや、分かるわよ!? それしか助かる方法が無いってのは良〜く分かった! けど、残された人がどう思うか考えた事はあるのッ!?』
「……一応、石瑠翔真は残るんだし、この身体が完全に消える訳じゃないぞ?」
『それでも、アンタっていう存在とはもう二度と会えなくなるって訳でしょうッ!?』
「……まぁ」
『アンタは一人でもやってけるのかも知れないけれど、他の連中はどう!? そういうのちゃんと考えて出した答えなのッ!?』
「……えーっと……」
『ほら見なさいよ!? 大事な人とはちゃんと話し合ってッ!! その上でどうするかを決めなさい!! 焦って答えを出しちゃ駄目よッ!!』
「いや……本当そうだな……」
僕は勢いに押されて、適当に頷く。
守護者モルガン……というか、黄泉比良坂の屋代美登里か。リアルで話した事は無かったから知らなかったけれど、大分世話好きな性格をしているみたい。世界ランキング第7位の屋代と言ったら、バリバリのキャリアウーマンで男性ファンも多かったと思う。別名"冷徹な女王"だっけ? 分からないもんだなぁ……?
「……初対面なのに、こんな事を話しちゃって悪かったな? 自己満足かも知れないけれど、アンタ達には全てを知っていて欲しかったんだ」
『それは別に構わないけど……アンタ、そうやって全部を自分一人で抱えていく気?』
「え? いや、抱えてるつもりは無いけど……」
『本当に?』
「……何を言ったとしても、僕が元人間であるアンタ達を犠牲にしている事には変わりはないんだ。そういう点で言えば、若干の気負いというか、背負っちゃってる所はあるのかも……」
正直にそう話すと、屋代は『ほら見なさい』と、怒り顔を見せて来る。
『私達の事は別に良いの! どうせもう死んでるのと変わりは無いし。だけど――』
「呉羽だけは違う……だろ?」
『あの子とはちゃんと話すのよ? それから、二人で全てを決めれば良いわ。私とか赤城を殺したからって自棄になったりはしないでね? 実際、殆どの連中はそうだと思うけれど、私達はアンタに"勝ち"を譲ったりはしてないんだから』
「……」
『正々堂々戦って――それで死ぬなら本望でしょ? ……まぁ、ちょっとはムカつくけどね』
「……アンタのそういうサバサバとした所、こっちの幽蘭亭に似ているよ」
『あぁ、まぁ同一存在だからね? 気に入っているキャラだったから、自分と一緒って知った時は普通に嬉しかったわね〜』
こっちは石瑠翔真が同一存在だもんなぁ?
普通に羨ましい。
『――そろそろ、時間かもね?』
「屋代……」
屋代の体は、徐々に薄くなっていく。肉体が死に、粒子へと還元されているのだろう。
『このまま死んで、あの世に行ったら……またアンタと会えるかしら?』
「僕は死ぬ訳じゃないからなぁ……?」
『そっか……死ぬよりも辛いもんね』
「……どうだろ?」
感想は人によるんじゃないかな? 現時点での僕は、そこまでだとは思っていない。
『……ま、アンタなら大丈夫よ。一人でもやっていける……一人でも生きていける……どうしても辛いって思ったなら、お姉さんの言葉を思い出しなさい』
「言葉?」
『アンタは一人じゃ無い。アンタの事が大好きな、可愛い女の子が待っている――ってね』
「……覚えておくよ」
僕の言葉は、屋代には届かなかった。
既に彼女は、消えてしまっていたからだ。
「やれやれ……これで、40階層か――」
覚悟はしていたが、辛い作業だ。
僕は思わず溜息を吐いてしまう。
その瞬間――『こら』っと、屋代に叱られた様な気がした。……多分幻聴だ。
けれど、少しだけ。
少しだけ、気は引き締まったかな――?
画面を確認すると、僕はLV.40になっていた。
実質的な総合値で言えばLV.80相当……けれど、もう数字に意味は無いのかも知れない。僕が倒すべき敵は神宮寺だ。奴に追い付けなければ、幾ら数値が上がったとしても関係が無い。
道明寺草子は、僕に言った。
『……世界と言うのは……簡単に崩壊するものじゃない。ABYSSという……安全装置が働いているのが、その証拠……』
『何らかの要因により、世界に穴が空いた。そこまでは良い。けれど……その穴が塞がらないのは……別に問題がある』
『――原因は、イレギュラーの存在……』
『この世界に……存在してはいけない異分子が紛れている……異分子は世界の修復を阻害し、やがて世界を腐らせる……異分子を排除しない限りは、世界は修復されないの……』
『君なら……分かるよね?』
『この世界に取り込まれた……黄泉比良坂のメンバーを除外して……この世界には、異なる世界からやって来た異分子が"三人"いる……』
『君達を排除しない限り――』
『この世界は、終焉を迎えてしまう……』
だから、僕はやらなきゃいけないんだ。
神宮寺秋斗を殺し。
鶺鴒呉羽を殺し。
超越者となって――
元の崩壊した世界に、帰らなきゃいけない。
たった一人で。
何も無い世界に。
何年も。何万年も。何億年も。
僕は死ねずに生き続ける。
これは、僕にしか出来ない事だと思う。
だってそうだろう?
「僕が一番、孤独には慣れているから――」
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