第271話 仲間との探索


 皆で探索を行う際に、やっておかなければいけないのが、攻略階層の"合わせ"である。


 現在、探索深度が最も低いのがD組所属の相葉達だ。他のクラスとの差も縮まっていたが、級長である通天閣や幽蘭亭よりは探索深度は低かった。3年生である我道なんて誰よりも攻略が進んでいる。全員の足並みを揃える為、相葉達を上に上げなきゃいけないのだ。


 此れに不満の声を上げたのが、我道だ。



「めんどっちぃし、だっりぃー……んな下の階層とかチマチマ行ってられっかよ! 二人で上の階層に挑もうぜ、翔真!!」


「僕もまだ30階層なんだが?」


「それくらいなら、合わせてやるよ!」


「……ていうか、遅刻して来た我道には発言権は無いぞ? 良いから黙って僕に従えッ!!」


「ぅ……わ、わーったよ……」



 ……本当に大人しくなった。


 この前、寿司屋の帰りに天樹院が教えてくれたのだが、我道は押しに弱いらしい。



『君が強気で行けば、彼女はなんでもするよ』



 無茶苦茶、半信半疑だったんだけどな!?

 どうやら本当だったらしい。


 疑って悪かったな、天樹院――


 そうこうして、僕等は探索に出発した。計8名(故人1名)のクランだから、編成は四人編成フォーマンセルを二つ作る事になる。リーダーだからと言って、全ての編成に口を出すつもりは無いけれど、今回は僕が決める事にした。


 内訳は以下の通りだ。


【第一PT】

 ・石瑠翔真

 ・鳳紅羽

 ・神崎歩

 ・幽蘭亭地獄斎


【第二PT】

 ・我道竜子

 ・相葉総司

 ・東雲歌音

 ・通天閣歳三



 正直、我道と僕が別個になっていれば後は適当で大丈夫だった。今回のメインは仲間との交流だろう。普段絡まない連中とクランを結成したからね。暫くは息を合わせる練習をした方が良いだろう。目標としては、一週間以内に30階層を突破する事かな? 学校も無いし、ABYSSに潜り放題な現状ならすぐに達成出来ると思う。



「それじゃあ行こうか。後で定時連絡をするから、出られる時は出て欲しい」


「心配要らねぇと思うけどな〜」


「今は特機も機能していないんだ。起こった危機は全て自分達で対処しなきゃいけない。慎重になるのも当然だろう?」


「確かに、そう思うと怖いわね……」


「階層内で迷った時は、ウチの式神ちゃんで探知したるわ。せやから、異変があったら早目にウチに言うんやで〜?」


「式神って、そんな事も出来るんだ!?」


「流石、幽蘭亭だな……」


「にしし。もっと褒めたってや〜♪」



 東雲と相葉に褒められて、御満悦な幽蘭亭。探すのはカッパー達なんだけどな? 札の中の魔種混交に、僕は若干の同情を抱いてしまう。



「Hey、翔真。潜る期間は何時までだ?」


「期間? 30階層を突破出来るまで」


「……Really?」



 マジか、と言った表情を僕に向ける通天閣。



「いや、余裕だって。転移石を見付けたら一度此処に帰って来ても良いし。ぶっちゃけ、こんなんキャリーだから、敵との戦闘だって苦戦はしないと思うよ?」


「稼ぎ行為もやんなくて良いんだよな?」



 我道が僕に訪ねてくる。



「下手にレベルを上げると総合力が伸びなくなるからね。戦闘を避けるまではしなくて良いけど、此方から積極的に狩る必要は無いかな?」


「あいよ。……その情報、もう少し早めに知りたかったぜ……」


「まだ強くなりたいのか……?」


「当然。負け越してる奴がいるからな!」


「凄まじい上昇志向だ。見習わなければな」



 我道の言葉に関心する神崎。


 むしろ僕は、我道とすら普通に接している神崎のコミュ力を見習いたいね?



「――あ、そうだ」


「ん……? どうしたのよ?」



 僕は紅羽に向き直ると、自身の次元収納から借りていた弓矢を取り出した。



「借りっ放しだったからな。返しとくよ」


「……」


「ん? どうした?」


「――いいわ」


「いいわって……何が?」


「だからソレ、貴方にあげる」


「え?」



 僕は思わず驚いてしまう。



「いや、あげるってお前……武器は?」


「スペアがあるし、私の方は大丈夫。ソレ、気に入ってくれてたんでしょ?」


「まぁ……」



 手に馴染む感じはしていたかな?

 でも、だからって貰うのは気が引けるだろ。



「改造したら、神宮寺さんの武器みたいに強くなれるんでしょう?」



 そんな事も言ったなぁ。



「――なら、強くして使ってよ。その方が弓矢も喜ぶってものでしょう? アンタの成長を祝って、プレゼントしてあげるって言ってるの!」


「……プレゼント、ねぇ?」



 お前も大概、柄じゃ無い事をやってると思うけどな? ――そう言う事なら、貰っておくか。



「後で返せって言われても、無理だからな?」


「はいはい。そんなセコイ事言わないわよ」



 僕は再び、紅羽の弓を次元収納内へと仕舞っていく。後で魔道研にでも寄って、武器を強化しないとな? 他のお店は閉まっているけど、あそこだけはやっている筈だ。



「それじゃあ、出発しますか――」



 気を取り直して、僕は転移石を見上げた。

 背後には、一緒に探索する仲間達が居る。


 何とも不思議な気分だった。


 でも――



「悪くは無い、かな……」



 燐光が僕の身体を包み込む。


 転移の光だ。


 視界いっぱいに広がる眩しい光に身を任せながら、僕は至極落ち着いた気持ちで、切り替わる景色を眺めていた。


 新生・黄泉比良坂の初探索だ。

 残された時間には限りがある。


 だから、今を精一杯楽しもう――


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