第270話 活動開始


 神宮寺に嘆願書を提出した翌日、僕等は"黄泉比良坂"として活動を開始した。魔晶端末ポータル画面のグループメッセージには、黄泉のメンバーがズラリと並んでいる。まるでリア充みたいだね? らしく無くて、笑えてしまう。


 天樹院が一緒に来れなかったのは残念だ。

 アイツもアイツで、今は難しい立場だしな。


 仕方がない。


 たまには顔を出すとか言ってたから、ソレで手打ちとしておこう。



「――お。早いな?」


「アンタが遅いんじゃないの?」



 アカデミーの転移石前には、紅羽と相葉が並んでいた。キンキンやかましい紅羽の声は、現在の静かな転送区には良く響く。



「黙って入って良かったのかな? 何か、誰もいないと落ち着かないな……?」


魔晶端末ポータルの画面を見てみろよ。転移石が稼働してなければ、転移メニューも開けないだろう? ABYSSに飛べるって事は、神宮寺が話を付けた証拠だよ。気兼ねなんてしなくて良いさ」


「まぁ、それもそうか……」



 相葉は僕の言葉に納得する。待ち合わせ時刻は朝の8時。現在時刻は7時30分だ。こういう時、早く来るか遅く来るかで、ソイツの性格が分かるよな? 僕は仕方が無しに、そこら辺の階段に腰を下ろした。アカデミー自体が封鎖されているから、当然お店なんかもやっていない。暇を潰す手段というのも限られてくる。



「そう言えば、藍那さんは大丈夫なの?」


「んー? 姉さんがどうしたって?」


「その、事件後の様子。聞いてなかったから」


「一応元気だよ。拉致されて以降の記憶は無くなっているしね。乱暴されたって話もメイド以外には伏せてるし、妹も退院して来た姉を見て安心しているって感じだね」


「そう……なら、良かったけど」


「ただ――見えない所で後遺症みたいなのは出ているらしい。この前買い物に行った時、レジ打ちしてたのが男性だったみたいなんだけど、釣銭を貰う時に手が触れちゃってね。それだけで姉さん、その場で吐いちゃったんだって」


「――トラウマか?」


「記憶は無くとも、身体は覚えてるって事なんじゃないかな? 何れは克服してくれると信じているけど、記憶を弄って『はい、解決!』とはいかないらしいね……」


「人の身体ってそんなに単純じゃないのよ。武者小路さん達も、大丈夫かしら……?」


「学校を休校してから、クラスメイトとは会ってないからな。皆、元気だと良いんだけど」


「……念の為、連絡は取っておいたぞ」


『え?』


「これでも一応、級長だからな。近況報告というか『大丈夫か?』っていう話はした」


「――え、偉いじゃないか!! 翔真ッ!!」


「うわ、意外……! アンタ、そういう配慮みたいなもの、出来る様になったのね!?」


「……」



 コイツら、僕を何だと思ってるんだ?

 思わず溜息を吐いてしまう。



「……取り敢えず、全員無事だよ。健康状態は問題ない。普通に自宅待機しているよ。武者小路とは今度一緒に出掛ける約束をしているし、宇津巳も会いたいって言ってたから、適当に時間を作ると思う。鈴木とはバッティングセンターに行く約束が出来てたかな? 後で卜部にも会わないと……進路相談がしたいらしい。芳川も同じだ。まぁ、他にも――拉致られた組じゃないけれど、悩みを抱えてる奴等は多いね? 一先ず会う予定があるのは榊原と高遠と三本松。菊田に安井って所かな? ……言ってて何だけど、女子が多いかもな? 念の為に言っておくが、狙った訳じゃ無いからね?」


「……いや、何というか、その……」


「……」


「本当に……変わったんだな、翔真……?」


「むしろ、別人ってレベル……?」



 ――失敬な。しかし、自分でも自覚してるから何も言えないね。



「変わったというか、敢えて変えてる……」


「それは、何で?」


「……んー。後悔したくないから、かな?」


『?』



 相葉達は、顔を見合わせた。



「もー! 良いだろ! 何でも! これくらいで驚くな!! 他にもA〜C組の連中と会う約束をしているし、2、3年生とも色々と話をしてる最中なんだよ! ……ルミナスからも、飯の招待をされてるし、一々驚いていたらキリがないぞ!?」


「はぁ……」


「何というか……子供の成長を見てるみたい」


「誰が子供だ!? 僕の方が年上だぞ!?」



 ……などと、話をしているとだ。



「……待たせたな」


「げ。もう結構集まっとるやん」



 神崎と幽蘭亭がやって来た。へぇ、幽蘭亭の私服ってこんな感じなんだ? へそ出しの白いトップスにフード付きのダボっとしたジャケットを羽織り、下はミニのスカートを履いている。靴はブーツで、シルバーのアクセサリーが多めかな? 右眼の眼帯と言い、何処と無く厨二病感が漂っているが、元が良いから似合ってるね。



「……総司が遅刻しなかったのは、意外だな」


「俺だって、やる時はやるんだよ」


「それ、何時も発揮して欲しいんですけど〜」


「歌音!」


「えへへ。おはよ、皆〜」



 寝惚け眼のまま、ポケ〜っと笑って、軽く手を振って見せる東雲。……淫魔族サキュバスらしく、朝は弱いらしい。……ていうか、何か服装が変わったかな? 前は可愛らしい服装をしていたと思うんだけど、今日来た東雲は胸元が大きく開いたキャミソールを着ている。僕が過剰に反応しているだけだろうか?


 伺っていると――



「どうどう? 可愛い? ――興奮しちゃった?」


「……あー、可愛い可愛い」


「えー! もっと感情を込めてよ〜〜!」



 ……確信犯だったか。


 近寄ってくる東雲はマジで可愛いんだが、紅羽や神崎、幽蘭亭がジト目で見て来るから、余り鼻の下は伸ばせないんだよな……。


 まぁ、リーダーが色香に惑わされる訳にはいかないだろう。しっかりしないとな。



「これで6人。残りは2人か――」



 呟く僕だが、我道と通天閣が待ち合わせ場所へとやって来るのは、それから1時間が経過してからの事だった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る