最終章 またいつか、逢うために
第267話 事件が終わって……
――ずっとずっと。
――ずぅっと、ずぅっと。
僕は一人になりたかったんだ。
他人からの干渉が苦手だった。人の視線も煩わしい。全人類の声帯なんて消えてなくなれば良いと思っていた。家族なんていらないし、友人もいらない。通行人だって邪魔なだけだ。人間が一人で生きられたら良いのに。そうではない社会に絶望して、僕は世の中との関わりを絶った。自殺が、出来たら良かったのかも知れない。けれど僕には家族が居て、こんな僕の死で彼等を悲しませるのは余りにも偲びなかった。
何処までいっても異常者なんだ。
だから、道明寺の話を聞いて納得したよ。
『貴方は、最初の魔種混交なんだと想う』
『余りにも例外が多過ぎる』
『存在自体が……歪』
世界から漏れた微弱な魔素に感応して、僕と言う存在は生まれたんだ。世界が崩壊する時、大量の魔素に晒されながらも、自己を見失わなかった理由はソレだ。僕は最初から化物だったんだよ。肉体の変異は、それが表出化しただけだ。中身は何も変わっていない。
ショック……というよりも、納得だ。
自分の異端さは、身に染みていたからね。
僕は変わらない。
何処までいっても僕自身であり。
相も変わらず、孤独を愛している。
――だから良いんだ。
――もう、決めたんだ。
『……本当に、それで良いのかよ?』
僕の中の"石瑠翔真"が問い掛ける。
此処は意識の狭間だ。
アイツも、僕の側で話を聞いていた。
なら、分かっている筈だ。
『選択肢なんて無かっただろう? 何もしなくても12月になれば世界は終わってしまうんだ。なら、やるしか無いだろう? レガシオン・センスのプレイヤーとして、僕は――』
『プレイヤーとしてじゃないッ!!』
『!!』
『お前がッ!! お前自身にッ!! 本当に良いのかって聞いてるんだよッ!!』
『な、何をそんな必死に……?』
『必死にだってなるだろうッ!? お前、お前本当馬鹿だよなッ!? 何が一人でも良いだッ!? 馬鹿も大概にしろよ!! 僕はな!! 僕はずっとお前の中で見てたんだぞッ!! お前の近くで、お前達の事を!! ずぅぅぅっとだッ!!」
『――!』
『お前、笑ってたじゃないか!? 本当は皆と一緒に馬鹿やれて楽しかったんだろう!? 孤独が好きだなんて嘘なんだろうッ!? 自分を偽るなよ!! 本音を言えッ!! お前、このままだと本当に……本当にッ!! 後悔するぞッ!!』
『後悔……』
その言葉、以前も誰かに言われたな? 確か、神宮寺だったか? アイツ、僕の事を良く知りもしない癖に分かった風な口を叩きやがって――
翔真も翔真だ。何を熱血してるんだか……お前にそんなのは似合わないぞ?
でもまぁ、気持ちは受け取っておくよ。
『馬鹿馬鹿言いやがって……お前だって大差ない位には馬鹿だろう?』
『な、何だと――ッ!?』
『……いいよ。分かったよ』
『へ?』
『要は後悔しない様な生き方をすれば良いんだろう? 作戦決行にはまだ時間がある。僕も、中途半端は嫌いだからさ……』
らしくないと思う。
でも、たまには良いだろう。
これが最後だと思うから――
『――精一杯、青春して来るよ』
◆
「……で? なーんで寿司屋なのよ?」
「寿司が食いたくなったから――だけど?」
「そういう事じゃなくて……!」
「紅羽、お前寿司嫌いだったっけ?」
「私は!! 面子の事を言ってるのよ!!」
『――え?』
僕達は一斉に、疑問を口に出した。
大人気回転寿司チェーン店『スシオー』の店内にはテーブルを挟んで9人の学生が座っている。言わずもがな僕達の事である。そのメンバーは僕と紅羽に相葉と神崎。東雲を加えて、更に通天閣と幽蘭亭。我道や天樹院と言った錚々たる顔触れが揃っていた。
紅羽の疑問も尤もだろう。相葉PTだけなら,まだ分かる。通天閣と幽蘭亭。果てには生徒会長と副会長が同席してるのだ。今までだったら考えられない面子だろう。
しかも、今回は僕から誘ったからね?
そういう意味でも、レアな会合だと思うよ。
ま、それはそれとして――
「……こういうお店に入るの、初めてだな」
「大丈夫か天樹院? 俺が何か取ろうか?」
「なら、サーモンを」
「サーモンだな? 良し――!」
天樹院の為に嬉々として働く相葉。今回の事件を経て、この二人の蟠り――というか、相葉の一方的なものだったが――は、無くなったらしい。今では呆れる程に忠犬を熟している。
「雨降って地固まる、ちゅー訳やな?」
「Yes! 仲が良いのは良い事だぜ!!」
「……お前達も、良く来たな? 翔真とは大した絡みは無かっただろう?」
「これって要は打ち上げ会やろ? タダ飯食えるんなら、普通にウチは出向くでー?」
「that's right!! 右に同じだぜ! 今回の作戦を経て、俺達は名実共に戦友になったんだ。誘われたら行くのが常識だろう!」
「……そう言えば、通天閣君って、アン=ブレラとかいう魔種混交を一人で足止めしてたんだっけ? 良く無事だったよねー?」
「Hmm……中々にhardなライヴだったぜ……だが、最後には奴も俺のファンになっていた……心と心が通じ合ったって事だろうな?」
「何言ってんだか、訳分かんねぇ……」
口に物を入れながら、ぼやく我道。その手には30皿目の寿司皿が握られている。皆が話している間に、黙々と一人で食べていた様だ。
「ちょ、食べ過ぎじゃない――!? まだ入店してから10分も経ってないわよ!?」
「はーん? ぐだぐだとうっせぇなぁ……お前らも、早く食わねぇと無くなるぞ? 探索者たる者、食事も戦いの内だからな?」
「無くなるって――」
「……この勢いを見ていると、満更嘘とは思えんな。――鳳、えんがわを頼む!」
「え!? ――わ、私!?」
神崎からの注文に、あたふたとする紅羽。注文パネルに一番近いのが紅羽と我道だからな。我道は頼んでもやってくれないだろうし、必然的に皆の注文は紅羽へと殺到する。
「紅羽、天樹院にチーズサーモンを!!」
「ウチはびんとろや!!」
「かんぱちplease‼︎」
「じゃあ私は、ねぎとろ巻きを頼もうっと!」
「寿司と言ったら、やっぱりコレだろう――紅羽! 僕にはコーンと玉子とハンバーグだァ!」
「アンタは魚食いさいよッ!?」
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