第266話 永遠の選択


 ――事件は終わった。


 領海での戦闘を終えた神宮寺が、兵を連れてアカデミーへと突入。主犯であった狂流川冥を殺害し、魔種混交・自存派のメンバー達を次々と拘束する事で事件は終焉を迎えたのだ。


 事件終了後。神宮寺は緊急放送を行い、事の経緯を国民に説明した。白日に晒されたのは魔種混交についてだ。この存在がどう国民に受け入れられたのかは一口では説明出来ない。賛否は分かれ、評価は二分されていたと思う。ある者は同情を。ある者は嫌悪を。確実なのは、この件を切っ掛けに朝廷の権威が地に堕ちたという事である。


 アカデミー側は重軽傷者多数として、一時的に機能を停止する事を発表。学業は元より暫くはABYSS探索も出来ない模様。まぁ、早めの夏休みと思えば良いか……? 捕らえられていた生徒達は、国が運営する病院へと連れてかれた。


 怪我の度合いにもよるが、概ね2週間で退院となっている。性暴行などのトラウマになりかね無い記憶は、神宮寺のスキル【模倣コピー】による劣化版【絶対支配ドミネーション】で書き換えを行なっていた。


 全てを無かった事には出来無いが、記憶を無くす事で姉さん達がいつもの日常に戻れるならば、それに越した事は無いだろう。


 ――いつもの日常、か……。


 果たして、本当に戻れたのだろうか?


 変化は多い。


 政治は混乱し、総理は退任。


 朝廷から後援を受けていた政治家は軒並みその座を降ろされた。首を挿げ替えられた議員も、こっちはこっちで頼りない。日本の難局を任せるには力不足だと思う。


 だからかな?


 神宮寺の奴が、探索休止を発表した。暫くは総理代行として外交を担当するらしい。その背景には諸外国への示威行為が含まれている。調子乗ってると、ぶっ潰すぞ? という意味だね。


 アメリカの軍隊を抑え、アカデミーを奪還した神宮寺は国の英雄として国民全体に称えられたとしてもおかしくはなかった。だが、現在の奴の評価は、ソレとは真逆のものだった。



『――神宮寺秋斗って、怖くない……?』



 SNSに書き込まれたその言葉は、瞬く間にバズってしまう。不謹慎だという輩も多かった。助けられてる分際で何を言っているのだと、難色を示す書き込みも多々あった。しかし、そこは匿名掲示板。本音が零れる場所である。


 神宮寺の奴は、やり過ぎたんだ。


 広島・長崎・京都・大阪・東京……五つの都市に向けて発射された、およそ100基の核ミサイルは、奴の空間転移によってアメリカ本土へと落とされた。結果としてアメリカ合衆国の50の州は半分に減ってしまっていた。2億人いた人口は一夜にして1億2000万人に減少。他にも、アメリカに呼応した諸外国は軍の形態が維持出来ぬ程に徹底的な攻撃を加えられたらしい。大統領が死んでいる所も存在する。神宮寺秋斗という男は、もはや畏怖の象徴となっていた。


 後、国内では"ルミナス"と"マイティーズ"が解散したな。もうABYSS探索はやらないらしい。


 ルミナスは実力を知り――

 マイティーズは人手不足によるものだ。


 どっちもボコボコにされてたしね? つまりは懲りたって事なんだろう。人気のクランが業界から消えてしまうのは寂しいものだ。



『上には上がいるという事です』



 憑き物が落ちたみたいに、晴れやかな顔でそんな事を言う輝夜さん。引退発表時の会見ではファンの人達は号泣したらしい。……別の意味で、神宮寺の奴も泣きたかっただろうなぁ?


 朝廷が無くなり、帝の威光も今は無い。

 これから先、探索者はどうなるのだろう?


 学生だって、モチベーションは低いしね。


 ま。僕のやる事は変わらないんだけど――



「――居た居た。やっぱり此処だったか……」


「……貴方は……石瑠翔真君……?」



 今は封鎖されているアカデミーの地下で、僕はボサボサ髪の白衣を着た少女を発見する。


 言うまでもなく、道明寺草子だ。


 やはり研究棟に居たか……僕の勘も、まんざら捨てたものでは無いみたいだ。



「魔道研に置いてあった本物そっくりのダッチワイフに、まさかあんな使い道があったなんてね? 本物はずっと研究棟に隠れてたんだな?」


「……うん。役目が果たせて、良かった……」


「シエルは? アンタの助手はどうしたんだ?」


「隠し通路を使って、逃した……彼女の身体能力なら……単独でも……占拠されたアカデミーを脱出する事も可能……」


「そっか」



 まぁ、無事ならそれで良いや。道明寺に会いに来たのは、世間話が目的じゃない。



「頼む、道明寺――知恵を貸して欲しい」


「……」


「……僕はこの世界を救いたい。崩壊する未来を変えたいんだ。僕の知り得た情報を全て話す。アンタには解決策を探って欲しいんだ!」


「解決策……?」


「頼む! もうアンタしか頼れないんだよ!!」



 頭の悪い僕では世界がどうとか言われても理解が出来ない! かと言って、神宮寺の策にも乗りたくない!! 自分達だけが逃げるって事は、この世界に住む人間を丸ごと見捨てるって事だろう!? 相葉、神崎、東雲……紅羽。僕はアイツらを見捨てたくないんだ!! もう二度と、狂流川の時と同じ気持ちを味わいたくない!!



「――分かった」


「!」


「まずは……君の頭の中を解析する……話はそれから……こっちに来て……」


「あ、――あぁ!」



 道明寺に連れられて、研究室の奥にあるドーナッツ型の機器に寝かせられた。気分は正に人間ドックだ。――と言っても、前の世界でも僕は健診なんて受けた事は無かったんだけどね?



「これで、何か分かるのか……?」


「口で説明されるよりは、見た方が早い……今から君の記憶を覗く……時間が掛かるから、羊の数でも数えてて……」


「はぁ」



 それって普通に寝ちゃわない?

 まぁ、良いか。


 僕は言われた通りに、頭の中で羊の数を数え始めた。羊が一匹……羊が二匹……段々と、意識が遠退いて来た。目覚めた時に、道明寺が何かを思い付いていたら良いなと考えながら、僕はゆっくりと瞼を閉じる――


 ……2、3時間と言った所か?


 揺さぶる振動によって、僕は睡眠から覚醒した。目の前には道明寺がいる。相変わらず何を考えているのか分からない表情だ。



「――全部、分かった」


「ん?」


「世界を救う方法、あるよ」


「…………え?」


「今からソレを教える」



 ――ちょっと待って。


 起き抜けで頭が混乱している。世界を救う方法……本当に? ……駄目だ、頭が働かない。



「その方法は――」



 道明寺の口から齎された情報は、僕に重大な決断を強いるものであった。


 もしかしたら――今までの学園生活は、全て前座だったのかも知れない。


 理解してから始まるんだ。

 終わりの始まりが。


 永遠への道のりが――



―――――――――――――――――――――


 此れにて第07章終了です!!


 まぁ……若干短かったですね? 前回が10万字を超えてしまったので、今回は文字数の調整も兼ねて詰め詰めに書かせて頂きました。


 毎度の事ながら章の感想は近況ノートにて綴らせて頂きます。御興味のある方は是非覗いてみて下さい。


 さて。次章――最終章です。


 長かった……本当に長かったです。(しみじみ)


 最終章は作者の書きたかった部分を全部詰め込むつもりです。ABYSS探索に神宮寺との決着。そして――蒼魔の決断。


 絶対に諦めない男と。

 諦めてしまった男の対決です。


 此処まで付き合って下さった読者様には感謝しかありません。完走までもう暫くです。願わくば最後までお付き合い頂けると幸いです。


 ギフトも感謝!!

 おかげで毎日更新維持出来てます!!


 それでは、また次回꜀(.ო. ꜆三꜀ .ო.)꜆!!

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