第265話 アイドルの死
マキシマイザー発動時には、紫電の様なエフェクトが発生する。格好良くて僕は結構好きな演出なのだが、敵からしてみれば「あ、コイツ今マキシ撃ったな?」と、自身の戦略がモロバレになってしまうという欠点がある。
マキシマイザーが使えないと言われていた理由の一つがコレだ。奇襲用途のマキシマイザーで敵に手の内がバレてしまったら意味がないだろう。対人戦は不向き。NPC戦でしか使えないと、多くのプレイヤーは言ってたさ。
しかし、僕は諦めなかった。
研究に研究を重ね――見付けたんだ。
マキシマイザー使用時のエフェクト。
そのキャンセル方法をね!!
やり方は簡単だ。
マキシマイザー発動中に、任意キャンセルが可能なスキル――例としては【ジャグリング】もしくは【玉乗り】を使用するだけで良い。マキシマイザーの場合、他のスキルで動作を上書きをする事は出来なかった筈なのだが、任意キャンセルを行うと効果が持続されるのだ。これを使ってマキシマイザー→ジャグリング→キャンセルを高速で行うと……あら不思議! 発動エフェクトが出ていないのに、しっかりとマキシマイザーが発動しているではありませんか!?
これはもはや、マキシ使いにとっては必須テク!! マキシマイザーの発生が早いから、キャンセルするにはそこそこの慣れが必要なのだが、僕にとっちゃぁ児戯だねッ!!
故に――天樹院戦でも溜めていたァッ!!
「うぉぉぉぉぉぉ――ッ!!」
僕の肉体から、天を突く火柱が上がる。
見据えるのは空だ――!
あの気色の悪い紫色の雲。
魔素の塊ィィ!!
目に見える全部を雲散霧消にしてやる――!
「死ね、死ね、死ねェェェェッ!!」
「――ッ!」
その時、肉体が硬直した――!
スキル【
狂流川……ッ! まだ抵抗するのか!?
「――いいや、僕達は生きる……未来に!」
『!!』
……身体が、楽になった……?
――そうか!
天樹院のパッシブ・スキル【森羅万象】
その効果は、自身を中心とした半径50m以内のスキルを任意で無効化するというものだ!
正に狂流川の天敵!!
これなら、行ける――ッ!!
「悪夢の終わりだァァッ!! 消えろ魔素ッ!」
「あ――」
「アルティメット・蒼魔ナックルゥゥッ!!」
天に向かって、突き出される右拳。体の奥の奥から生じた膨大なエネルギーが、蒼い閃光となってグングンと空に向かっていく――!!
蠢く魔素を蹴散らしながら、閃光は空を晴らしていく。浮かぶは月光。隠された満月が輝いてた時、空を覆っていた大量の魔素はその姿を決していた。消失――した訳では無い。集まったものを散らしただけだ。この世界には魔素が漂っている。人体に有害な物質だが、それでも今のこの世には必要な物だ。消し去る事なんて出来ないし、しない。降り注ぐ光の雪を目にしながら、僕は全てが終わったと認識した――
それは、早計だったのだろう。
「――翔真君?」
「え?」
狂流川が僕を見て呟く。言われて気が付いたのだが、マキシマイザーを撃った直後の僕は蒼魔から翔真へと姿形が変わっていた。
蒼魔の力を使い過ぎたからか……?
「翔真君、翔真君、翔真君――!!」
「!」
「私ね、私、ずっと君が来るのを――ッ!!」
狂流川が、駆け寄って来る。
その瞬間――
トンッ! と。
彼女の胸に、一本の弓矢が突き刺さった。
『――え?』
シンクロする僕等の声。狂流川の見開いた目は、僕の背後を凝視していた。
「滅殺だ――狂流川冥」
「なん、で……?」
「お前は危険過ぎる……理由はそれだけだ」
「――」
夥しい血を胸元から流しながら、狂流川はその場に倒れた。完全に致命傷だった。
もう、助からないだろう。
「……な、何で……?」
僕は……何でだろう? 自分でも意味不明な感情で背後の射者を睨んでいた。対する奴は悪びれもせずに僕の視線を涼やかに流している。
「神宮寺ぃ……お前ッ!?」
「何か文句でもあるのか? ――石動蒼魔?」
「……ッ!!」
文句!? ……文句だって!?
分かってるよ!!
狂流川冥はやり過ぎた!! その罪は死刑以外では贖えなかったかも知れない!!
これは間違いなく、感情論だ……!!
それでも矢を射ったお前が気に食わない!!
諦めて手放したお前が許せない!!
そんな、子供の癇癪だ……!!
「……ごぽっ!」
「!」
倒れた狂流川が、血を吐き出す。僕は慌てて彼女へと近寄った。生気の無い顔……もう、死がすぐそこまで近寄っている。
「わたし、し……ぬの……?」
「――」
「嫌だよ、しに……たくない……だって、まだ仲直り……して、ない……のに」
「狂流川……」
「……これじゃあ、わたし……ただの……やな女、だ……ううん……最初から……そうだったのかも……? ……ふふふ、何処で……間違えちゃったの、かなぁ……?」
「――狂流川さん」
「天樹院君、ごめんね……? 皆にも謝っといて……私……酷い女だったから……」
狂流川の手が、宙を彷徨う。僕がそれを握ると、彼女は安堵した様に笑ってみせた。
「翔真君」
「あぁ」
「遅刻……だよ……」
「あぁ」
「もっと早く、来て欲しかったなぁ……」
「……」
「私も、皆みたいに……救われたかった……」
握った手に、力が消えていく。
「……なんてね……嘘だよ……嘘……」
「……」
「……バイバイ、翔真君……」
――狂流川冥は、息を引き取った。
厄介で凶悪で憎い敵だった彼女だが。
最後はやはり人だった。
救えなかった――か。
僕の胸に後悔が残る。
重く苦しい悔恨だ。
アイドルとは、忘れられた時に死ぬらしい。
きっとこれは、彼女の呪いだ。
僕は一生、引き摺ると思う。
彼女の"愛"を――
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