第262話 通話の先
――SIDE:相葉総司――
「総司? ――どうしたんだ、総司!?」
「――」
救助作業を行う傍――
「……蒼魔の……ピンチだ……」
『!!』
「どうやら……天樹院と無理矢理戦わされているらしい……この通話も、蒼魔からだ……」
「奴は――蒼魔は何と!?」
「周囲の音声だけしか拾えない……きっと、狂流川さんにバレない様に、俺達に状況を伝えてるんだと思う……」
「それって、かなり不味い状況だよね!?」
「あぁ……」
俺達は、蒼魔の正体が翔真である事を知っている。アイツの性格上、こうやって誰かを頼るなんて事は天変地異の前触れレベルに珍しい事なんだ。よっぽどヤバい状況なのだろう。
「救助作業を中断して、一旦蒼魔はんの加勢に行った方がええかもな……?」
「――いや、待ってくれ!」
俺は拾えた会話に集中する。音声は小さかったが……間違いない。コレは重要な情報だ。
「天樹院が敵の言いなりになっているのは、父親である帝が人質にされているからなんだ」
「帝って……あのグロい奴やな?」
「……狂流川冥は、リモコンで帝を何時でも爆破出来るらしい。まずは、その帝を解放した方が良いと思う……!」
「帝の居場所は!?」
「少なくとも、グラウンドには居ないらしい」
「情報が少な過ぎるな……」
「他には何か拾えないの!?」
「他には……――ッ!?」
「総司?」
「い、いや! 何でもない……」
俺は思わず、聞こえて来た音声に耳を疑った。
天樹院が、帝に犯されていた……?
そんなの……そんなの、初耳だぞ……?
アイツが、俺の知らない所で?
『――総司、お前が守るんだぞ?』
「……」
――亡くなった父の言葉が、蘇る。
守る。護る。まもる……?
俺は、本当に天樹院を守っていたのか……?
俺の事には見向きもしなかった、アイツ。
でも、違ったのか……?
「――」
本当に見えていなかったのは――
「……相葉! おい、相葉ァ!!」
「――ッ!」
「なんやボーっとしおって! 音声聴いとんのはお前なんやから、もっとシャキッとせぇや!」
「あ、あぁ……悪い」
俺は、幽蘭亭へと謝った。
そうだ。過去の慚愧なら幾らでも出来る。
今はアイツを救う事だけを考えるんだ!!
考えろ――考えろ、考えろ!!
『――今頃は何処かで息子の勇姿でも眺めてるんじゃない?』
……眺める?
戦いはグラウンドで行われている……グラウンドを俯瞰出来る場所――
「アカデミーの……校舎の屋上……?」
――呟いた瞬間、俺はそこしかないと確信する。グラウンドを俯瞰するだけなら校舎の中でも可能だが、あの大きな図体を教室の中に収納するのは至難の業だろう。しかも、狂流川は帝をリモコンで"爆破"すると言っているんだ。爆薬を積むスペースを考えたなら、広さのある屋上が最も適している場所なんじゃないか?
「皆、聞いてくれ――!!」
俺は自身の推測を皆と共有する。アカデミーの校舎へと向かったのは、その直後だった。
◆
「しっかし、本当にこの先に居んのかね?」
道すがら、我道竜子が呟きを零した。誰かに宛てた言葉ではない。殆ど独り言だったと思うが、俺は敢えて彼女の話題に乗ってみた。
「状況から言って、可能性は高いかと……」
「へっ! だったら帝って言うのも大した扱いを受けてるよなァ!? 道中護衛の一人も居やしねぇ。挙句の果てには爆弾括り付けられて屋上に放置だろう? 日本の象徴に此処までの事をする狂流川は、とんでもねぇ極悪人って事だ!」
「……その、我道先輩は今まで何を――?」
この際だ。
俺は気になっていた事を質問してみた。
「――ずっと隠れてた。天樹院の命令でな」
「天樹院の!?」
「うるせぇな……そんな驚く事かよ? 自存派とかいう調子乗った連中が学校に押し寄せて来た時、私は普通に応戦しようと思ってたんだ。ソレをアイツ――天樹院の奴が止めたんだよ。この騒動の裏には狂流川が居る。私が操られたなら厄介な事になるってな? だから私は、事が起きるまでは大人しくしてたんだよ!」
「つまり――生徒会長は、最初から狂流川冥の事を怪しんでいたという事か?」
歩が我道先輩に問い返す。先輩は走る速度を落とさずに「当然」だと答える。
「テメェ等も見て分かっただろう? 普段はアイドルぶりっ子をしてやがるが、狂流川冥って女は超絶イカれたサイコ野郎なんだよ。アイツが失踪したって聞いて、一番警戒してたのは私等だぜ!? ぜっっってぇ碌な事をしねぇと思ってた……まさかソレが、国に対するクーデターだとは思いもしなかったけどなァッ!?」
「斜め上を突いて来たって事か……」
「天樹院のスキル【天帝眼】は対象の過去を見通す事が出来る。ソイツが良く取る行動なんかをパターン化して戦闘に役立ててんだとさ。ただ、狂流川の奴はパターンが取れない。常に奇抜な行動を取るアイツは、天樹院でも行動を予測するなんて事は出来ねぇらしい」
だから――捕まった。
先輩は舌打ちをしながら言葉を続けた。
「アイツの父親が日本國の"帝"だって事は知ってたさ。つか、学校中で噂になってたしな? 真偽は兎も角として、聞いた事がある連中は多いだろう。――ただ、まさか父親が天樹院の弁慶の脛だとは思わなかったぜ。あんな風に狂流川に従う天樹院は、見たくなかったな……」
「……」
「――早く助け出しちまおうぜ。でもって、狂流川の奴は、私が死ぬ程ぶん殴ってやる!!」
犬歯を剥き出しにし、ギラギラとした目付きで拳を掌に打ち付ける先輩。
屋上への扉は、もう目の前であった――
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