第257話 救出班① 相葉
――SIDE:相葉総司――
――いいか?
――今回の作戦は終始隠密行動で行う。
――絶対に敵に見付かるな。
――救出班と陽動班で人員を分ける。
――陽動を行うのは僕と通天閣だ。救出には相葉、神崎、東雲、宮藤、幽蘭亭。
――以上、五名に当たって貰う。
――攫われた生徒を保護したなら、宮藤の持つ【空間転移】で入口を作って貰い、設置した転移ポイントまで飛んでくれ。
――絶対に無理はするな。
――僕からは、以上だ。
7月23日。午後7時30分。
岩戸島基地の転移施設でABYSS内部に飛んでから、俺達は数時間を掛けてアカデミー内の転送区へと辿り着いていた。歌音が用いた方法は階層更新時に使用する転移石に、自存派内部で使われていたという違法アプリを仕掛け、アカデミー内部に逆転移するものだった。
途中、自存派の幹部。カッパー=グリーンとかいう男と遭遇したが、此れを蒼魔が軽く撃破。
幽蘭亭により、何と式神化に成功した。
「ボクの人権何処行ったの〜〜〜!?」
――とか、騒いでいたけれど。
今は緊急事態だから、構ってやってる暇は無い。カッパー=グリーンから聞き出した情報を元に、人質の居場所を知った俺達は、アカデミーの転送区へと転移する。此処が一番の関門だったのだが、転移石前には誰もいなかった。人っ子一人いない転移石広場は、むしろ異様で、俺は知らずに寒気を感じた。
蒼魔達と別れたのはその直後だ。
救出班は、カッパーという捕虜を携え、生徒達が捕えられている体育館に向かっていた。
「……妙だな」
「どうした、歩?」
「警備がザル過ぎる。敵はアカデミーを占拠したのだろう? これではまるで放棄した後だ」
「ウチとしては楽でええんやけど……ま、確かに妙やな? 誘われてる可能性はあるで。何せ情報源が敵である河童小僧やからな?」
「――ひ、ひぃ!? ぼ、ボクは本当の事しか言ってないよぉッ!?」
「たりまえやボケェッ! ウチら謀っとったら河童巻きにして食ったるからなァッ!? おらぁ! 奴隷らしくキリキリ歩けや、ほんまッ!!」
「ひゃ、ひゃい!! ……こ、怖すぎる……」
「……ドS心に」
「火が点いてる、ね……」
幽蘭亭の剣幕に、俺と東雲は苦笑する。
少しだけ、カッパーに同情しちゃうな……?
俺が思った、その時だ。
「……フンフン。――匂う……!! この匂い! スケベが行われている匂いだわッ!?」
「く、宮藤さん? 何をいきなり……?」
「フヒヒ!! こうしちゃいられないわッ!! 私も急いで駆け付けなきゃ――ッ!!」
「あ、ちょっ!?」
止める間もなく、駆け出す宮藤さん。
「何やアイツ!? 目立ちおってからに……!」
「匂いに反応してたみたいだけど、スケベってなぁに……?
怒る幽蘭亭と、呆れる歌音。
「追い駆けるぞ、総司!!」
「あ、あぁ!」
俺は神崎に押されて、先行する宮藤設楽を追い掛けた。これの何処が隠密行動なのだろう? 自分で自分にツッコミを入れてしまう。幸いというか、何というか……此処まで来たら怪しいのだが……敵に発見される事は無かった。宮藤を追って、体育館の中へと侵入する俺達。締め切られたカーテン。薄暗い室内で目撃したのは、変わり果てた様子の皆の姿であった。
キャア! キャア! と、騒ぐ宮藤を除いたら、俺達は皆同じ表情をしていただろう。
「クヒ、クヒヒ……っ」
「あー……」
「アハ! アン……アフ、アフフ……っ」
『――』
――まるで狂気の檻だ。人質として捕らえられていた皆は、一糸纏わぬ姿で折り重なり、正気を失いながら肉欲に溺れていた。
「み、皆……?」
当然、その中にはD組の生徒も存在した。
「芳川さん……武者小路……」
複数の男子に集られ、自ら楽しむ様にして腰を振る彼女達。その、だらしなく弛緩した顔は俺の知る彼女達の姿では決してない。
明らかに何かをされている。
何か――?
それは恐らく、スキルの効果だろう。
狂流川冥の
一体何故、こんな事を……!?
「……考えるのは、後だ」
「歩……」
「まずは全員を救い出す。正気を失っていようが構うまい。順次、転送区へと送ってやろう」
「そう、だね……兎に角、今は皆を安全な場所に移す事が先決だよ。スキルの効果についてはその後で考えよう……」
「田中、鈴……アホが、簡単に操られおって」
「フヒ、フヒヒ、イケメンの乱交……!!」
「宮藤!! お前も観察しとらんで手伝えや!」
「――は、はひぃっ!」
「……しっかし、コレ。連れて行くっちゅーても、どうしたらええんや? 気ぃ失ってる連中は
ばっちいだけで簡単やけど、まだ動いている連中は担いで行く訳にもいかんよなぁ?」
「……気絶させるしか、無いんじゃない?」
「やっぱそれか。気は進まんがしゃーないな」
言って、幽蘭亭はその辺の女子を相手に腰を動かしていた雨宮風太郎へと近付いた。
「……風太郎……お前、しっかり性欲有ったんやな? 正味知りたくは無かったわ……」
幽蘭亭が当て身を喰らわそうとした、その時である。一心不乱に女子を犯していた雨宮が、突然、背後の幽蘭亭へと飛び掛かった。
「な――ッ!?」
「グォォォォォォォォォォッ!!」
雄叫びを上げ、幽蘭亭を押し倒す雨宮。呼応する様にして、周囲の生徒達が俺達を見る。
「まさか、此処に人が居ない理由って――」
「こうなるから……かな?」
「く……ッ」
正気を失った彼等は、俺達を取り囲みながらジリジリと此方に寄って来た。まるで獲物を前にした肉食動物だ。俺達は餌って訳かな?
「歩、歌音――」
「……分かっている」
「殺さない様に、手加減はしなきゃね……?」
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