第254話 指揮官任命②
場所を変え、訓練施設へとやって来た僕達。噂って言うのは何処で広まるんだろう? 手合わせの準備をしていると、アレよアレよという間に学生達が野次馬に来ていた。彼等は比較的傷の浅かった面々だ。ただ待機しているのも暇だろうしね。救出作戦の指揮を取る者が、どれほどの実力か見極めに来たのだろう。
「頑張って下さい!! 輝夜さん!!」
強化ガラス越しに、女子生徒の一団が輝夜へと声援を送った。彼女達はルミナスに教導を受けた生徒達なのだろう。輝夜贔屓になるのも当然だ。何処の馬の骨とも知れない石動蒼魔を応援するよりは、よっぽど健全だと思う。
野次馬達は扉を隔ててガラス越しに此方の試合を見学していた。少し危険かもと思ったが、壁の方も特殊加工されているし、本気を出さなきゃ壊れないと思う。室内には広いスペース以外は何も無い。この訓練施設には様々な環境に合わせた個室が多数用意されていたが、力比べをするだけなら、この部屋で充分だった。
「流石は御子神輝夜……人気だね?」
「まさか、此処までの大事になるとは……」
「なら、止めときますか?」
僕は冗談めかして、割と本気にそう言った。
「いいえ、続行しましょう。折角の応援ですから、受け取らないのは申し訳ない」
「あ、そう……」
まぁ、そう来ると思っていたよ。
僕は次元収納内から木刀を二振り取り出すと、一振りを輝夜さんへと投げて渡した。
「武器はそれで良いかな?」
「私は構いませんが――」
言いつつ、輝夜さんは僕を見た。
表情には、戸惑いが含まれている。
「剣士である私に、同じく剣で勝負すると?」
「あぁ。僕はオールランダーだからね。全ての武器種を扱える。心配は無用だよ」
事実を言っただけなのだが、輝夜さんは益々不服そうな顔をした。
「……全ての武器を扱えるというのなら、得物同士の相性もご存知でしょう? 何故、態々同じ土俵で勝負を受けるのですか?」
「え? フェアプレイの精神……とか?」
勝つ為なら手段を選ばない"外道な男"が良く言ったもんだな? 我ながら呆れてしまう。此処にレガシオン時代の"亡霊"を知る人間がいたら、総ツッコミを受けていただろう。
「……後悔しますよ?」
眼光を鋭くしながら、輝夜さんは木刀を正眼に構えた。対する僕は自己流の構えだ。木刀だって片手で持っている。木刀を使うからと言って、"剣術"で勝負するとは限らないだろう? そこら辺の思い違いが彼女にはあるのかも知れない。面倒だし、態々指摘する気は無いけどね。
「――蒼魔!!」
声のした方向を見ると、そこには野次馬達に紛れて、紅羽達が立っていた。アイツらも噂を聞いて駆け付けたのか……無感動なまま此方を見詰める三人を眺めていると――だ。
「せーのっ!!」
『――頑張れ!! 石動蒼魔っ!!』
「!」
――何と、声援を受けてしまったぞ。
周囲には輝夜を応援する生徒しかいなかったら、彼等の声援はとても目立っていた。
「……全く、ガキ共め」
「――あらあら。嬉しそうですね?」
「そうか?」
「えぇ、口元が弛んでいますよ?」
「……」
「油断して、負けない様にして下さいね?」
「――ハッ、誰が……ッ!?」
「ハァァァァァァァァ――ッ!!」
ガギン、と言った音が、室内に響き渡る。
木刀と木刀が打ち合った音だ。
速攻か!!
御子神輝夜――ッ!!
一度剣撃を受け止めた僕だが、彼女の動きは止まらない。滑り込む様に懐へと入った輝夜は、剣の持ち手を変えながら胴や小手。脇などを狙って次々と木刀を振るって来る。
――うぉ、流石に上手いな!?
息も吐かせぬ怒涛の猛襲。総合力で勝ってなければ、躱す事は不可能だっただろう。飛んでくる剣を木刀の切っ先で受けながら、僕は流す様にして更に間合いを詰めて見せる。
まぁ、つまり――体当たりだよね?
「――くっ!」
肩口から当たって、輝夜の身体を吹き飛ばす。剣術で僕が勝てる訳ないだろう? やるのは必然、総合力を活かした徒手格闘だ。見た目はそう見えないかも知れないけれど、元の肉体に戻った僕は、ゴーレム以上の膂力を誇る。
ぶち当たっただけでも、結構効くだろ?
でもって、駄目押しィィッ――!!
「セイヤァァッ!!」
「!!」
僕は勢い良く右手を振り被り、御子神輝夜の胸元を掴んだ。……よし! このまま、投げ技に移行して、倒れた所を寝技で押し込んでやる!
僕が思った、その時だ。
ビリリっと。
何か、不思議な音が聴こえてきたんだ。
「――あ、あ、あ……」
「……? あ、あれ……?」
輝夜の着ていた着物の様な和風の装束。それが、何故だか知らないけれど、ビリビリに敗れていた。当然、破れた箇所は胸元だからさ。そのう……出るよね。白い乳房がさ……?
たわわな双丘が中央でぶつかり合い、胸元に伝った汗の滴が、衝撃で地面に飛散する。
――見えた、水の一雫!!
シャイニング蒼魔、スーパーモードである!
屹立する我がJr.!! 目の前で怒張したソレを見て、輝夜は顔を引き攣らせる!!
「い、嫌ぁぁぁぁぁ!?」
『う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――!!』
輝夜の悲鳴は、怒号の様な男子達の叫びに掻き消されてしまっていた。
これは――アレだな。
僕の勝利確定って事で……良いよね?
「サイッテー……」
げんなりした、紅羽の呟きが聞こえて来た。
全くもって、同意である。
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