第253話 指揮官任命①
相葉達と話した後、僕は一人で基地の施設内を回っていた。巡回という意味合いもあったけれど、実際には考え事がメインだったと思う。
今回のクーデター。主導権を握っているのは狂流川の方だろう。元々、気が狂ってる女だからな。何を考えているのかはサッパリ分からない。政府に出した三つの要求……アレらは全部ブラフだろう。全国の魔種混交の解放と、尤もらしい事を言っているが、政府に要求するまでも無く自存派は同胞達を次々と解放していた筈だ。今更この場面で頼み込むのは違和感がある。僕の考えを後押ししたのは、残る二つの要求である。100兆円……いや、いらないだろう。連中は金を目的に動いていた訳では無い。背水の陣で挑んでいるクーデターに、何故に金銭が介入するのか? それと、ABYSSの権利放棄の念書だって? そんなもの効果は無い。国が反故にしてしまえばおわりだろう。テロリストと交わした念書に効力は無いだとか、後出しで言ってしまえば全部が終わってしまう話だろう。
重要なのは、三日という点だ。
態々期限を設けているんだ。
恐らくは、その日に何かが起こる。
救出するタイミングは、ソコか――?
本当なら今すぐにでも動きたい所だが、今回の作戦は失敗は許されない。神宮寺程の武力があるなら話は別だが、生憎と僕にはそこまでの自信はない。何せ、アカデミーの全生徒の命が懸かっているんだ。慎重に慎重を重ねてもやり過ぎでは無いだろう。
後、個人的にだが――
どうしても助けたい人間がいる。
それは――天樹院八房ではなく。
姉である――石瑠藍那でもなく。
魔導研部長の道明寺草子だ。
頭脳チートと呼ばれる彼女なら、この世界を救う方法を思い付くかも知れない。
ていうか、もうそれしか希望はない!!
他力本願だが許してくれ。
僕はそんなに頭が良く無いんだっ!!
彼女が死んだら――全てが終わりだ。
絶対に、絶対に助け出す!!
「ん……?」
頭の中で意気込んでいると、通路の反対側から御子神輝夜が歩いて来た。
数少ない大人組だ。
何か挨拶した方が良いのかな……?
思いとは裏腹に、まごついてしまう僕。中途半端に手を上げ下げしていると、逆に向こうから話し掛けられてしまった。
「――石動蒼魔様、ですね?」
「あ、はい」
「御挨拶が送れて申し訳ありません。私はルミナスの代表・御子神輝夜と申します。此度の加勢、誠に感謝しております」
「あ、はい」
「神宮寺様との御関係は存じませんが、その実力は兼ね兼ね聞いておりました。次の作戦は貴方様が指揮を取るという事で宜しいですか?」
「あ、はい」
「でしたら――是非、この私を救出作戦に! 決して邪魔などは致しません! 妹である千夜を! 囚われた学生達を救いたいのです!!」
「あ? はい……?」
「作戦に、加えて頂けますか?」
「……」
ズズイと、顔を近付ける輝夜さん。妹に似て綺麗な顔をしている。此方はもっと凛々しい印象かな? 後一歩前に進んだらキスしちゃうなーとか、考えている僕は不埒者なのだろう。
「意気込みは買うけど……救出作戦に参加して貰うのは、ちょっと……」
「それは――私の実力が、劣っていると?」
あ、やべ。
殺気を向けられてしまった。
「いやいや、そう言う意味じゃなくて――」
「では、どういう意味ですかッ!?」
「あー……、いや……」
敵の襲撃に備えて、実力者である輝夜さんはこの場に残って皆を守って欲しい。
そう言いたいんだが――何分此方はコミュ症だからね。そんな怖い顔をされたら、言いたい事も言えなくなっちゃうんだよねー?
内心で悲鳴を上げながら、僕は輝夜さんから距離を取ろうとする。が――それを察した彼女は僕の右手を徐に掴んだ。絶対に逃がさないという意志を感じる……マジで勘弁して欲しい。
「前から思っていたのです」
「え?」
「貴方と私、何方が強いのか――」
「あ、はい」
「――石動様。どうか、私と手合わせをお願い致します。勝った方が此度の救出作戦の指揮を取る。それで宜しいではないですか?」
「……はぁ」
宜しくは無いんだけどなぁ……?
この人、言っても止まらなさそう。
「指揮権を与えたのは神宮寺秋斗です。しかし、私はあの方を好いてはいません」
「それはそれは……えーっと……好き嫌いで、仕事をしているのかな?」
「――いいえ。しかし、向こうが好き嫌いで人選をした可能性は否めません!」
だとしたら、見当違いだね。
だってアイツ、僕の事は一番嫌いだし。
輝夜さんの言ってる事は、おかしいと思う。
身内が攫われて、焦っているのかなぁ?
『――期待するのは止めておけ……』
神宮寺の言葉が蘇る。苦虫を噛み潰した様なアイツの表情は傑作だったが、その不幸が僕にまで降り掛かるなんて聞いていないぞ。
アイツほど見限っちゃいないが、やっぱりプロ探索者は使えないのかも。ゲームでも割とそうじゃない? 最初から強いNPCって、意外と微妙だったりするんだよね。LV.1から育て上げた加入時期の早いキャラの方が全然強かったりする現象。あれって一体何なんだろうね?
全部の作品に当て嵌まる訳では無いけれど。
挑まれたなら、仕方が無いか。
「じゃあ――やりますか……?」
僕は渋々と、手合わせに了承した。
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