第251話 話し終わって
『……』
「――とまぁ、こんな感じかな」
全ての経緯を話し終えると、相葉達は絶句してしまう。余りにも荒唐無稽な話だ。彼等がそんな反応をしてしまうのも無理はないだろう。
「えーっと……つまり、翔真は蒼魔さんで、神宮寺秋斗は御剣直斗……?」
「……別の世界からやって来た人間とは……」
「念の為に聞くんですけど……嘘じゃないんですよね? 私達を揶揄ってる訳じゃ……?」
「――全部、本当でしょ」
戸惑う皆とは裏腹に、紅羽の奴は僕の言う事を全面的に信じてくれていた。正直、その様子に僕自身が驚いてしまう。コイツ、悪い物でも食ったんじゃないのか? それこそBBQをしている時に、拾い食いとかをしたとか――?
「大体おかしいと思ってたのよ。入学式の前日まで、日々を怠惰に過ごしていた翔真が、アカデミーに入学したら、実はプロ顔負けの実力者でした――なんて、余りにも都合が良過ぎじゃない? 別人が翔真のフリをしてたって言う方がまだ信憑性があると思うわ」
ふんぞり返って「それ見なさい」と、偉そうに言う紅羽。……まぁ、思い出してみたら、この世界の翔真は別に闇堕ちとかしてなかったしな。世界が滅びるとか聞かされて、色々とはっちゃけてた可能性だってあるんだ。紅羽の言う通り、とてもじゃないが影で努力して実力を隠していた人間とは思えないだろう。
「しかも何よ『僕と紅羽をくっ付けろ』ですって……? 呆れた……アイツ、他人の力を借りなきゃ女を口説く事も出来ないの?」
「あぁ、はい」
全部ぶち撒けると言ったからね。
当然、そこら辺もノーカットで皆にお届けしていた。紅羽の奴はプリプリと怒っていたが、翔真の気持ちが自分から離れていないと知って、少し嬉しそうである。この二人……案外、お似合いなのかも知れないなぁ……?
「その、神宮寺の事も……信じるのか?」
「……」
恐る恐る、紅羽に問う。
紅羽からして見れば、憧れの人が極悪人だったみたいな話だろう? 生き残る為だったとは言え、アイツが世界崩壊の引き金を引いたのは間違いないんだ。――当然、罪は重い。
僕の問いに、紅羽の奴は表情を変えずに「うん」と頷いた。……分かり易い筈なのにな? 珍しく、僕には紅羽の感情が理解出来なかった。
「……いつか、大それた事をする人だと思ってたわ。それが世界崩壊だとか言われても、納得しちゃってる自分がいるの。『あの人ならやりかねない』って、普通に思う……これは、憧れとは別の感情よ? 貴方が彼を憎む気持ちは理解出来るわ。けれど私は、全てを聞かされた今でも、彼を嫌う気持ちは湧かないの」
「……それは、何故だ――?」
理解不能だと言わんばかりに、神崎が問う。
「そうね。そう言う人だって、知ってたからかな? 人が人を憎む時って、自分の気持ちが裏切られた時に抱く感情だと私は思うのよ。期待とか好意とか、その他諸々。自分の思い通りにいかないから、人は人を憎むのよ。その点、私は最初から彼がどういう人間かは知ってた訳だし、ショックも小さかったって事だと思う」
「全部知ってて、憧れてたって言うのも凄い話だけどな……?」
呆れる相葉。
その意見には、僕も同意だ。
「……この臨海合宿で、僕は奴と接触した。実際に会話をした結果。疑惑では無く、奴が確信犯だという事は判明している」
「じゃあ、本当に――」
「あぁ、アイツは自身の目的の為に世界を滅ぼした。ソレは、滅び行く世界から自分達だけ脱出するという利己的な理由だった」
「滅び行く世界……?」
「……どうやら、ABYSSが出現している世界は長くは持たないらしい。僕達みたいなイレギュラーが、転移して来れたのがその証拠さ。持って一年だと、神宮寺の奴は言ってたよ……」
『!?』
衝撃の内容に、絶句する皆。
「その……回避する手段は……?」
「……現状では、存在しない」
仮にそんな手段があったとして、神宮寺が行わなかった理由が分からない。奴が自分中心な性格をしているのは分かっているが、だからと言って、そう易々と世界崩壊という暴挙を犯す奴だとは思えないんだ。実際に、臨海合宿での奴の行動を鑑みれば、確かだと思う。
『……』
重い沈黙が場を支配した。此処で止まっていても仕方がない。僕は話の続きを再開する。
「ABYSSの100階層を攻略すると、光の玉が手に入る。レガシオンと呼ばれるソレは、人を不老不死に進化させる力があるんだ。神宮寺の奴はソレを使って、仲間達を自分と同じ"超越者"へと進化させようとした。……何処まで成功したのかは分からない。けれど、実際に彼等は世界移動を行い、この世界へとやって来ている。世界に取り込まれて、今ではABYSSの守護者何てものになっちゃったけどね……」
少し話が脱線しちゃったかな……?
結局の所、僕が言いたかったのはこうだ。
「――姿形は違うけど、僕は君達が良く知る石瑠翔真であり、その正体は石動蒼魔なんだ! だからその……今まで通り、接してくれると助かる……僕の話は以上だよっ!」
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