第247話 蒼魔の記憶②


 公式からの事前情報では、最後の階層主グランド・ガーダーとの戦いは、編成制限が取り払われているらしい。仕様としてはレイド戦と似ているかも知れないね? 戦闘参加PTが1組のみだった以前までとは違い、今回は無制限で参加出来るらしい。


 だったら、フレンドを連れて大人数で挑めば良いじゃん! ……って思うだろうけれど、そこはそれ。しっかりと対策はされているらしい。具体的には、戦闘人数が一人増える度に、敵のパラメーターが上昇するとか。まぁ、この手のゲームなら鉄板なシステムだね?


 ――黄泉比良坂は、9人で挑むらしい。


 つまりは、クランの全メンバー。

 効率なんて、一切考えていない構えである。


 ある意味、潔いと僕は思った……。


 日本中……いや、世界中から注目されているレガシオンの攻略配信だ。失敗すれば赤っ恥じゃ済まされないだろう。黄泉比良坂という世界第1位のクランの地位が、揺らぎかね無い……。


 だって言うのに、連中には焦りや緊張は一切ない。むしろ自然体でゲームを楽しんでいた。


 攻略よりも何よりも――仲間と共に過ごすこの一瞬が、尊いものだと言う様に……。



「……アレが、"無貌むぼう"か」



 ――塔の頂上。空に浮かぶ大きな亀裂から、1柱の神が舞い降りた。人型の形をしたソレは、大きく唸りを上げて両碗を広げた。まるで『此処から先には行かせない』そうした言葉を言っている様だった。体長は2m程か……? 大人数で挑む敵にしては、少しサイズが小さいな。


 蒼炎を纏った肉体に、皿の様な真っ白な仮面。手首には枷があり、そこから伸びた鎖が異形の身体に巻き付いている。


 ……コレがラスボス?

 ……本当にコイツは強いのか?


 僕の疑問は、次の瞬間――氷解する。



『■■■■■■』



 無貌の右腕が、グズグズと言った音を立てて変形する。円型のリングの様な形となった右腕は、肩口の所で浮遊しながら、その回転力を増していく。



『全員、備えろ――ッ!!』


『!!』



 御剣の警戒は正しかった。無貌を腕を薙ぎ払う。リング状になった腕からは極太の光線が発射され、黄泉の連中が回避したと同時に、本格的な戦闘が開始された。


 無貌の攻撃パターンは多彩であった。触れれば即死級の極太の光線に、追尾するレーザー。回避不能の全体爆発。凶悪さ故に敵しか使えない【ハイレベルダウン】に、弱点属性以外を無効化。貫通後にランダムシャッフルを行う【無色の鎧】と、攻防一体の構えを見せている。


 更に厄介なのが、敵のデバフだ。カース・スキルは効果範囲に入れば必ず当たる。その範囲というのが恐らくボス部屋の全域だ。黄泉の連中は常に【ハイレベルダウン】……総合ステータスの-50%を喰らっており、専用スキルの【エリミネート】でランダムに"スキル"もしくは"アイテム"使用を永続で禁止されている。


 また、攻撃モーションもこれまた優秀だ。全ての技の出が速い……格ゲーで言うなら、大パンチが1フレームで発生。端から端まで届いてしまうというクソゲー具合だろう。


 しかも、一度捕まったらコンボに繋がる。



『がぼッ!?』


『赤城!? 花糸! ヒーリング頼む!!』


『追撃は私がァ――ッ!!』


『美登里さん! ペトラちゃん、アシスト!!』


『うん……!!』



 赤城駿が無貌に捕まるも、コンボに入る前に屋代美登里がソレを防ぐ。カウンターで放たれた追尾レーザーや、伸縮する無貌の腕を、ペトラの無敵付与……【パーフェクトバリア】でやり過ごしながら、距離を取る。レガシオンに防御力の数値が無くて助かったな……? 装備品にはデバフは効かない。赤城駿はギリギリの所で一命を取り留め、野原花糸の【フル・リヴァイブ】によって、すぐに戦線へと復帰した。


 戦いは拮抗していた。

 要となっているのは、やはりあの男。


 御剣直斗である。


 目まぐるしい速度で動く戦場で、奴は仲間全員に的確な指示を出しながら、御自慢の弓で無貌の足を止めさせていた。一挙手一投足に無駄がない。芸術的なテクニックだ。全体的な総合力で、奴に勝るプレイヤーはいないだろう。



『はぁぁぁぁぁぁ――ッ!!』



 そして、鶺鴒呉羽。

 彼女も凄い。


 世界ランキング第2位は、伊達ではない。殆どの連中が無貌の攻撃に対応出来ないでいるが、呉羽だけは別だ。彼女は攻撃の"起こり"を見切り始めていた。1フレームの発生を天才的な洞察力と人間離れした瞬発力で


 人間業じゃない……!

 僕や御剣だって不可能だ……!!


 被弾しない呉羽を軸に、黄泉比良坂は徐々に無貌を追い詰めていく。


 前衛で切り込むのは鶺鴒呉羽、漆原刹那、鼎夕の三人だ。中衛は倖田俊樹、屋代美登里、赤城駿。後衛でアシストするのは御剣直斗、ペトラ=アンネンバーグ、野原花糸。


 全員が一丸となって戦っていた。


 配信コメントも加速している。

 皆のボルテージが上がっているのだ。


 そうして――


 その時が、遂に来た――



『――届けッ!! 終焉剣ェェェェンッ!!』



 全てを終わらす呉羽の剣が、


 無貌の中心を貫いた。

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