第245話 秘密の暴露会② 東雲


 ――SIDE:東雲歌音――



 何となく……何時かはこんな日が来るんじゃないかと思ってた。だって、私は魔種混交だもん。一緒の学校に通って、一緒にお喋りして、一緒の御飯を食べてみても……結局は別の生き物だ。根本的に相容れない。


 だから、この平和は仮初なんだって。

 いつかは失うものなんだって。


 心の何処かで思っていた。


 自存派の最終目的は、ABYSSの占拠。

 

 もうこれ以上、私達の様な存在を産み出さない為に、ABYSSを封鎖する事を目標に活動して来た。私がアカデミーに潜入したのも、その理由。特機の動向を調べるだとか、細々としたものもあったけれど、最終的にはクーデターを行う為の前準備をしていたって訳。



『私達はそんな事、聞かされていない』



 ……どの口がそう言ったのだろう?


 作戦が実行されれば、犠牲は絶対に避けられない。私は分かっていた筈なのに、敢えて見ないフリをしていた。穏健派のレイヴンなら無茶な作戦は執らない。生徒達の安全を確保しつつ、無血でABYSSを占拠する。そんな理想論を本気で信じ、現実逃避をしていたのかも……。


 ――今となっては、全てが遅い。


 実際に犠牲者は出てしまった。岩戸島基地の職員は、その殆どが殺されていた。生徒達だって分からない。重傷者は数え切れないくらい存在するし、拉致された子達だって、無事な保証は何処にも無い。


 ……人間ノーマルと接し過ぎたのだろう。


 罪悪感が、胸を打つ。


 でも――



「――」



 私は顔を上げ、"仲間達"の姿を見た。

 こんな私でも、彼等は信じてくれている。


 仲間だと、言ってくれた。

 

 その気持ちには、報いなきゃ――



「私は……自存派に所属する魔種混交……本当の名前は……アンネ=リンクス……」


「アンネ、リンクス……」


「……今まで嘘付いてて、ごめんね?」


『……』



 皆は、何て言ったら良いのか……言葉を探している様な、そんな表情を浮かべていた。



「東雲歌音は、仮の姿。私は自分の容姿を変化させるスキルを持っていたから、組織に言われるまま、東雲歌音に変身していたの」


「それは、アカデミーに潜入する為……?」


「うん。優秀そうな中学生に目星を付けてさ。詐欺みたいな手口で個人情報を入手。本人の知らない所でアカデミーの書類審査に応募して、通過した生徒に成り代わるってやり方を私達はしてたんだよ」


「それじゃあ、本物の"東雲さん"は?」


「何も知らずに一般科に通ってると思う。最初に紅羽ちゃんに声を掛けたのも、自分が東雲歌音だという設定に補強を入れる為の行為だったんだよ。私は自存派の一員として、ただ任務を熟そうとしていただけ……」


「……鳳が、別人だと気が付いたらどうするつもりだったんだ?」



 歩君が、当然の事を聞いてくる。

 まぁ、その懸念は尤もだけど――。



「――平気だよ。言い逃れする手段ならいっぱいあるし、そもそも、鳳紅羽と東雲歌音に、大した接点が無いのは調査済み……」


「実際に、私も気付かなかった訳だしね……」



 自嘲する様に、紅羽ちゃんが言う。



「……東雲。お前は、今回の事件が起こる事を知っていたのか?」


「知らなかった。けど――それは言い訳にならないよね。私は自存派に所属しながらアカデミーに潜入してた。何時かはこんな日が来るのは分かってたよ……」


「――後悔してるのか?」



 蒼魔さんが、私に問う。



「……仮に時間を巻き戻せたとしても、私は同じ事をすると思う。だから――分からない」


「歌音……」



 皆、私に幻滅したかな?


 でも、これが私の本心。


 どっち付かずな自分。



「……"後悔してない"じゃなくて、"分からない"か。なら良いさ。そうやって迷うって事は、それだけ歌音がこの学園での一時を大切にしてたって事だもんな?」


「総司君……」


「歌音が魔種混交だとか、潜入する為にアカデミーに入学してたとか、そんなのはどうでも良いんだよ。――ただ、俺達の事を本当に仲間だと思ってくれていたのか。一緒に探索したあの日々が、嘘じゃなければ何でも良い」


「……そうだな。確かに、その通りだ」


「歩君……」


「ねぇ、歌音? 歌音は私達の事をどう思ってるの? 潜入した先のただの学生? それとも――」



 紅羽ちゃんが、私へと問い掛ける。

 答えは既に決まっていた。



「そんなの、仲間に決まってるよ……っ! 一緒に探索して、一緒にお喋りして、一緒に御飯を食べて……!! 皆と一緒に居れて、楽しかった……ッ!! 楽しかったんだよ、私は……!」



 叫びながら、私は涙を流していた。感極まった紅羽ちゃんが、似た様な顔をして私に抱き着いた。――二人で、えんえんと泣いていた。



「……言えたじゃないか?」



 両腕を組みながら、したり顔で頷く蒼魔さん。この人は何なんだろう? 何も知らない筈なのに、ずっと関係者みたいな顔をしてる……。


 やがて泣き止んだ私達は、お互いに少しだけ距離を取る。皆の前で泣いちゃった……恥ずかしい様な、嬉しい様な……不思議な気分。



「――さて、東雲が勇気を出した以上、今度は僕が秘密を明かす番なんだろうなぁ……?」


「蒼魔さんにも、秘密があるんですか?」


「まぁ、そりゃあね。隠し事の一つや二つ、生きてたら誰にでもあるだろう」


「それはそうですが……」


「……別に無理して言わなくても」


「……うん」



 私達は仲間同士だから秘密を打ち明けたけど、蒼魔さんとは初対面。話の流れから、こんな事になってしまったけれど、彼が付き合う必要は無いと思う。


 そんな空気を察してか――



「詳しく! 聞かせて貰うわよ……」



 紅羽ちゃんが、念押しした。不思議に思いながらも、私達も彼の言葉を待つ事にした。



「じゃあ、改めて……」



 言いながら、深呼吸をする蒼魔さん。



「僕の名は石動蒼魔。――地球は滅亡する!」

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