第07章 アカデミー奪還編

第243話 一夜を明けて


 7月21日金曜日。

 臨海合宿、最終日の朝。


 本来なら僕達は、この日の早朝にフェリーへと乗り込み、東京へと帰る筈だった。


 魔種混交・自存派の襲撃というイレギュラーから一夜が明け、寮舎区間の一角では、その日起こった事の説明を意識があった者達が率先して行っていた所である。


 生徒達の困惑は大きい。何せ、自分達の先輩である狂流川冥が主導して、国家に対してクーデターを行ったというのだから、まぁ……信じられないだろう。公表された情報の内容もショッキングだ。クラスメイトが拉致されているというのも大きいね? 取り分け、1-Aの狼狽っぷりは凄まじかった。級長である御子神千夜は拉致され、護衛である鶯卍丸が瀕死の重症……相葉の話では、神宮寺が来なければ間違い無く死んでいたらしい。針将兄妹も行方不明。正に壊滅的と言って良いだろう。


 他の教室も、拉致被害者は大勢居る。B組では幽蘭亭のPTメンバーが彼女以外、消えてしまった。C組も同じくだ。通天閣のPTメンバーは西園寺以外は残っていない。大体、一教室に付き5人以上は拉致られた計算だ。D組も卜部や、武者小路達が行方不明。それだけではなく、全体的に負傷の度合いが大きい。彼等は皆、砂で生き埋めにされていたらしいから、意識を取り戻した後も、酸欠の症状で苦しんでいた。


 医者じゃないから、何とも言えないが――二、三日は様子見と言った所か? とても救出作戦には参加出来ないだろう。


 そう、救出作戦。


 便宜上そう呼んでいる、アカデミーへの突入作戦。神宮寺が居ない以上、奴が言う様に、此処は僕が動くしかないだろう。


 一応僕は学生なんだけどね……? 原作では政府の人間は役に立たなかった。現実のこの世界でもお察しだろう。アカデミーの生徒達を助けたいなら、まずは自分から動くしかない。


 ――今の僕は、石動蒼魔である。


 二日酔いで変身した時は、1日寝たら翔真の身体に戻ってたんだけどな? この時間帯でも変化は無しだ。……もしかしたら、入れ替わった時のダメージが大き過ぎたのかも知れない。


 夢の中にも"翔真"は現れないし……。


 少し、心配ではあるね。



「ちょっと、蒼魔! ……少し良い?」


「え?」



 僕を呼んだのは紅羽だった。彼女は僕の目の前へとやって来ると、そのまま手を取り、何処かへと連れて行こうとする。


 おいおい……。

 まだ僕は、何も言ってないんだが――?


 思った僕だが、翔真の姿とは違い、今の素の状態の僕はコミュニケーション能力にデバフを背負ってしまっている。分かり易く言うと、彼等への接し方が分からないのだ。押しに弱くなってしまうのも仕方が無い。


 連れられるままに歩いて行くと、辿り着いたのは、生徒に充てがわれた個室である。区画によって男女別に分けられていたのだが、現在は空いてる部屋は何処でも好きに使って良いという有様になっている。実際、部屋数の方が人間の数より多いんだ。怪我人優先。効率優先で部屋を充てがうのは当然だと思う。


 中に入ると――そこには、相葉や神崎。東雲の姿が部屋にはあった。一人用の個室だから、三人が入ると流石に狭いな? たった一つのベッドを囲み、更に狭くなる様に、僕と紅羽は部屋の中へと押し入った。



「……えーっと、何この状況?」


「いや、俺達に言われましても……?」



 ベッドの横で、椅子に腰掛けた相葉が首を振る。隣に座るのは神崎だ。相変わらずの仏頂面……というか、少し此方を警戒しているな? 上体を起こし、ベッドに座っているのは東雲だ。この中では一番重症だったしな? 元々この部屋は、彼女の個室だったのだろう。――で、そこに僕等が押し掛けたという事か。



「……鳳、何故彼を連れて来た?」



 神崎が鋭く僕を見る。まぁ、この姿では完全に外様だしね? 言われてしまうのも無理はない……とは言え、少しだけ傷付くなぁ……?


 思っていると、紅羽の奴が僕等を引き合わせた理由を説明する。



「……もう、隠し事は無しにしたいからよ」


「何……?」


「私達、仲間でしょう!? 歌音だってそう。今起こっている事は学生の私達には手に負えない事かも知れない! けれど、仲間同士協力して、一致団結すれば何とかなるかも知れないじゃない!? プライバシーだとか、何だとかで、私達は今までお互いの事に深入りはしなかった! けれど、それももう終わりにしたいの!!」


「紅羽ちゃん……」


「私達、何時死ぬか分からないんだよ? 仲間なのに、何も知らないまま終わりたくないッ!」


『……』



 紅羽の叫びに、皆は一様に沈黙した。

 最初に口火を切ったのは、相葉だった。



「俺は――元公家だ」


『!!』


「親父は天樹院の護衛役で、奴とは子供の頃から知り合いだった……奴が原因で親父が死んだ時、俺は天樹院を憎み続けた」



 でも。と――相葉は言葉を続ける。



「放送の中で……奴が拘束されている姿を見た時、俺は『助けなきゃっ!』……って思ったんだ。……おかしいだろう? 親父が死んで。家が没落したのは奴が原因だ。それなのに、今でも俺は天樹院を憎み切れていなかった……」


「総司、アンタ……」


「俺は、天樹院を助けたい……!! 攫われた千夜さんも救いたい……!! これが、俺の嘘偽りのない本心だ……ッ!!」


『――』



 相葉の吐露に、皆が心を動かされる。


 その時、僕は漸く気が付いた。


 ……この流れ……もしかして、一人ずつ隠し事を発表していく感じなのかな――? って。

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